米国在住の作家バリー・ユアグローさんがコロナ禍で都市封鎖されたニューヨークで書き、翻訳家の柴田元幸さんがほぼリアルタイムで訳した掌編集『ボッティチェリ』(ignition gallery・792円)。ISBNコードも持たない、A6判の小さな本が2刷2千部と版を重ねている。
症状が悪化するほど外見が美しくなる感染症が流行し、集中治療棟で美人コンテストが開かれる表題作のほか、外出が可能だった時代を思って人々が嘆き悲しむ「ピクニック」など、この異様な時代の気分を閉じ込めた12編。4月5日から5月11日にかけて書かれ、できたての物語をメールで受け取った柴田さんが片端から翻訳していった。ユアグローさんのメールには「正気を保つため」に書いたとあったという。柴田さんのアイデアで小回りのきくリトルプレスから出版。最終編が書かれてから3週間弱で刊行された。(板垣麻衣子)=朝日新聞2020年6月20日掲載