学生時代の疑問が出発点だった。「米軍が日本を守るために駐留しているというのは、勝手な思い込みではないか。そんなお人よしのはずがない」。基地問題の研究に取り組んで15年、答えを本書に結実させた。
焦点を当てたのは、日本本土の米軍基地がごっそり沖縄に移された1970年前後の基地再編だ。どう進められたのか。米側の公文書をもとに、米国の意思決定を丹念に読み解いた。浮き彫りになるのは、米国の政府や軍部、議会の当事者が、それぞれの組織の利害得失から何度も計画を練り直した過程である。
当時の米国はベトナム戦争の泥沼化にあえぎ、世界規模の基地再編を図っていた。日本はベトナム反戦運動や安保闘争が盛んで、米原子力空母の佐世保寄港や米軍機事故で反基地闘争が激化した時期にあたる。
「首都圏など本土で厄介者扱いされた基地が、目に映らぬようにと政治的な理由で沖縄に収納された。沖縄の負担は、政治的な理由で本土の身代わりになった結果だった」
一次史料を駆使した本書は、この間の米側の決定に日本政府の関与は無きに等しかったことを明らかにしている。日本の基地に関する米側の政策決定過程、著者の言う「ブラック・ボックス」をつまびらかにする学術研究は、意外にもこれまでほとんどなかったのだという。
沖縄の普天間移設や海兵隊駐留の経緯について、最近は若手研究者の調査や分析が目立つ。牽引(けんいん)役の著者は、感情移入を戒め、「学術的に淡々と切る」ことを信条とする。
ただ表紙は別ということだろう、東松照明の作品から選んだ。手前に風船を膨らませる「混血児」の少女、後方に米兵や横文字の看板――沖縄を含む基地の街を歩いた写真家が横須賀で撮った印象的な一枚。「感情の部分が揺すぶられたようです」(文・谷田邦一 写真は本人提供)=朝日新聞2020年8月22日掲載