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「西比利亜の印象」書評 「旅する詩人」の辺境紀行

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2020年09月26日
西比利亜の印象 著者:ミハイール・プリーシヴィン 出版社:未知谷 ジャンル:欧米の小説・文学

ISBN: 9784896426137
発売⽇:
サイズ: 20cm/127p

西比利亜(シベリヤ)の印象 [著]ミハイール・プリーシヴィン

 ロシアの作家・プリーシヴィンは、20世紀初頭の「旅する詩人」でもあった。特にシベリアなど辺境の地を訪ねての紀行文は、独自の空間を描き出す。
 本書には表題の「西比利亜(シベリヤ)の印象」と「黒い亜剌比亜(アラビヤ)人」の二本が収められている。訳者は漢語混じりの独特の訳を試みる。シベリアのある町で川の対岸に渡ろうにも、風が強くしばらく待つ。「岸に彳(たたず)むばかり。牛や羊や駱駝(らくだ)が、私たちの四囲(まわり)に麕集(くんしゅう)します」。さらには「没(い)り日の赤い光りと弥終(いやはて)の盧(あし)の疎(まば)らな黒い網を瞭(はっき)りと目にします」といった訳文もある。いわば実験的な訳書であり、著者の全感覚を自らの中に取り込んで、別な作品を編んだかのようでもある。
 この書により、シベリアに住む人たちの文化、歴史そして伝承を背景とした詩情あふれる生活が浮かび上がる。「西比利亜は、無辺の園」とはいえ、そこに入ってくる「移民」への嫌悪は、ソ連の時代への伏線と言えるのかもしれない。