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「明治維新の意味」書評 世界史的に見た等身大の歴史像

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2020年12月12日
明治維新の意味 (新潮選書) 著者:北岡伸一 出版社:新潮社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784106038532
発売⽇: 2020/09/18
サイズ: 20cm/367p

明治維新の意味 [著]北岡伸一

 2018年は明治維新150年にあたる年だった。政府・地方自治体による種々の記念事業に対しては国威発揚・戦前回帰という懸念の声もあったが、1968(昭和43)年の「明治100年」と比べて盛り上がりに欠けたというのが実情であろう。ようやく等身大の明治維新像を描き出せる環境が整ったとも言える。
 著者は日本政治外交史の泰斗だが、明治維新の専門家ではない。ゆえに本書でも、画期的な新説を唱えているわけではない。しかし「純専門家でない、準専門家」ならではの広い視野で、明治維新の世界史的意味を解き明かしている。
 明治維新というと「富国強兵」の印象が強いが、著者に言わせれば、維新の本質は民主化革命、自由化革命、人材登用革命である。議会開設からわずか8年で政党内閣が成立した日本の民主化のスピードは、日本がモデルとしたドイツよりも速いと主張する。
 こうした迅速な改革が実現した要因として、著者は大久保利通、伊藤博文、福沢諭吉らに注目する。自身が国際政治の舞台を体験したからか、現実主義的で結果を重視する人物を高く評価する点が興味深い。
 征韓論に端を発する明治6年の政変において、西郷隆盛派遣という閣議決定を大久保利通は強引な手段で覆している。西郷派遣が紛争につながる恐れがあった以上、大久保の行動は政治家として適切であり、手続きの正しさは二の次である、と著者は言い切る。
 伊藤博文は憲法制定過程において、君主権を制約し国民の権利を広く認める方向に議論を進めた。一方で、外交問題がナショナリズムを刺激することを予期し、議会に条約批准の権限を与えなかった。福沢諭吉は国民を統合する上で皇室が不可欠であることを理解し、だからこそ天皇の政治利用を戒めた。
 終章からは明治維新という民主化がポピュリズムに変質する様子がうかがえた。今こそ必要な教訓だ。
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 きたおか・しんいち 1948年生まれ。国際協力機構理事長。東京大名誉教授(日本政治外交史)。『清沢洌』など。