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フルポン村上の俳句修行 冬紅葉の昭和記念公園で、愛を込めて吟行句会

文:加藤千絵、写真:北原千恵美

 12月9日午前10時、マスク姿の村上さんが降り立ったのは東京都立川市と昭島市にまたがる国営昭和記念公園。東京ドーム約40個分の敷地には、広大な原っぱやサイクリングコース、子どもの遊具、日本庭園、夏にはプールやバーベキューができるエリアなどがあり、四季の豊かな自然とともに楽しめます。

 ここで、結社「ひろそ火(び)」東京支部の吟行会「風の会」を主宰するのは、木暮陶句郎さん。群馬で伊香保焼の窯を開く陶芸家の木暮さんは、陶芸の材料屋の主人が俳句結社「ホトトギス」の同人だったことで、俳句に出会います。木暮さん自身もホトトギスで学び、俳句を始めてちょうど10年の節目に句集を出すと、それが地元で話題に。群馬の若手俳人として重宝され、求められるままに句会を開いていくうちに仲間が増えて、2011年に自ら結社を立ち上げます。

村上さんと木暮陶句郎さん

 「ひろそ火」の名前は、哲学の「フィロソフィー」と陶芸の「火」に由来します。「群馬の人が句会の場所を提供してくれて、その一つが高崎哲学堂だったんです。それで『あ、フィロソフィーじゃない!』って。俳句に哲学を持つ、っていうのは私がずっと言ってきたことなんです」。その俳句哲学とは、「愛という詩情を季題(季語)に注ぐ」こと。「恥ずかしげもなく、本当に愛って大事なんだよ、って言ってるんですよ。だって愛がなければ人も自然も、しっかり見ようとしないじゃないですか。愛があるからこそじっと見る。ただ見たものを写す『ペラペラの写生』じゃなくて、対象の向こう側に愛や情が入り込んでいるかどうか、それをとても大切にしています」

美しい日本庭園に絶句

 前日の晴天とはうって変わって、灰色の雲に覆われたこの日。気温も低く、村上さんはパーカーをかぶり、コートのポケットに手を入れて寒そうに歩きますが、ピンクに咲きこぼれる山茶花や、燃えるような冬紅葉が景色を明るくします。

 鴨が泳ぐ池や、一本の大ケヤキがすくっと立つ芝生広場、落ち葉に埋もれる彫刻作品などに詩心を誘われつつ、吟行のメイン舞台である日本庭園へ。たっぷり30分近くかけて到着すると、紅葉を浮かべた池を中心に東屋が立ち、橋が架けられて、そのたもとには雪吊りをした松も。そんな光景を前に「きれいすぎて噓みたい。工芸品みたい」と言葉を失う村上さん。「写真で見るのとは全然違う!」と感動しつつ、句作に励みます。

 あっという間にスタートから2時間がたち、蕎麦でいったん冷えた体を温めながら推敲。午後の句会に備えます。この時点で形になった俳句は4、5句。提出しなければいけないのは10句。さて、どんな結果になるのでしょうか――。

入選、特選を発表!

 句会は近くの施設に会場を移し、午後1時過ぎから始まりました。村上さんが提出できたのは8句で10句に届かず、でした。

・蜘蛛の巣に冬の椿の花粉かな
・園内の残堀川に寒芒
・枯園の重なっているテラス椅子
・大ケヤキ囲う大ケヤキの落葉
・冬紅葉見上げて昏き枝のあり
・動く鴨動かぬ鴨の波紋かな
・冬帽の小さき双子の合言葉
・空譲りあうように照る冬紅葉

 「風の会」は木暮さんの指導句会で、参加者10人の選が読み上げられた後、木暮さんの入選(取り切り)、特選10句、大特選5句の順に発表されます。村上さんの句は「蜘蛛の巣に冬の椿の花粉かな」「大ケヤキ囲う大ケヤキの落葉」の2句が入選、「動く鴨動かぬ鴨の波紋かな」「枯園の重なっているテラス椅子」が特選になりました。

木暮:(テラス椅子は)いつもだったら並べられて座る人も多いんですけども、これだけ寒くなってくると外で食事をする人も少なくなっていくわけですね。秋に来たときはみんなテラス席で食事してましたよね。だけども巡ってくる季節の中でテラス椅子も端っこに重ねて片付けられている。そこに着目した句ですね。村上さん、写生の句がすごくいいですね。写生眼というか、何を見つけるかが俳句なんですよね。この広い公園の中で自分が今日何を見つけたのか。自分の目線を信じて、しっかりと自分なりの発見をしていただきたいと思います。この句はそれができてると思いました。

(鴨の句も)鴨をよく見ていると。動く鴨からの波紋は大きいんですが、動かない鴨からの波紋も出ているんですね。鴨が寝ているだけでも心臓の鼓動なのか、ちょっと波紋が広がっているんですよね。微妙なところを見つけられているなという感じがいたしました。

大特選はこの5句でした

気に入りのハーフブーツに落葉踏む 溝渕雅子
するするとジャコ天うどん漱石忌 工藤由美子
散り尽くすまでの山茶花径となり 杉山加織
楪(ゆずりは)の実の黒々と暗き空 田村ふじみ
原つぱに詩人はひとり冬の雲 松本余一

 中でも「ジャコ天うどん」の句は、「今日は実は漱石忌で、私も一生懸命作ろうと思ってたんですよ。だけどなかなかできなくて、これはやられたなと思いました(笑)」と木暮さん。「ジャコ天うどんをかきこんで、今日は漱石忌だななんて風に思いながら過ごす一日。なにげない句なんですけど、漱石忌がぴったりハマって、効いてるなと思いました」

 そんな木暮さんの句で、この日人気だったのは「咲く力散りゆく力ひめつばき」「山茶花の散りゆく愛を惜しみなく」「パーカーに匿す詩心落葉径」「森深く置かれて冬の月球儀」の4句。村上さんへのあいさつ句を含めた「愛」あふれる作品で句会を盛り上げました。

句会を終えて、村上さんのコメント

 公園自体がすごく大きくて、紅葉もすごくきれいだったので、こんなにきれいなものを俳句にしなくていいんじゃないか、みたいな気持ちになりました(笑)。紅葉を俳句にするのはむずかしいなと思って、ほかの人が見つけないかもしれないな、というものを詠んで、選んでいただいたのでよかったです。みなさんもすばらしい句がいっぱいで、選句が大変でした。めちゃくちゃいい公園だったので今度は俳句なしで、もっとゆっくり見て回りたいですね。

先生からのアドバイス

 村上さんの句は意外とオーソドックスな印象でした。最初に習った先生がよかったんじゃないですかね。テレビ番組には発想を飛ばすと言ってとっぴな句も出てきますが、それに流されてない感じはありました。俳句の本質をちゃんと踏まえてお作りになってるんじゃないかな、って実感がありましたね。よく見てらっしゃるし、頭で作ってない。感覚でちゃんと作られてるなと。

 「大ケヤキ」の句をカタカナで書いていたので、漢字を使ってほしいなと思いました。その方が俳句として格調も上がるし、受け取る側もカタカナで書かれると違うものに見えちゃうんですよね(笑)。そういうところを気遣っていただけると、もっとよくなると思います。(陶句郎)

↑公園のパンフレットが「大ケヤキ」となっていたのでその表記を尊重しましたが、なるほどと思いました。勉強になりました!(村上さん後日談)

【俳句修行は来月に続きます!】