「キングコング・セオリー」「さよなら、男社会」書評 権力関係を解明する二つの方法
ISBN: 9784760152483
発売⽇: 2020/11/26
サイズ: 19cm/219p
ISBN: 9784750516769
発売⽇: 2020/12/02
サイズ: 19cm/205p
キングコング・セオリー [著]ヴィルジニー・デパント/さよなら、男社会 [著]尹雄大
まず『キングコング・セオリー』はこう始まる。
「私はブスの側から書いている。ブスのために、ババアのために、男みたいな女のために、不感症の女、欲求不満の女」……挑発的な言葉はなおも続く。
著者はフランスのヴィルジニー・デパントで、実はこの本自体は2006年に出版されたものだ。当時も多くの人の心をえぐったが、それが今世界中で再び読まれているのだという。
人気作家である彼女は、赤裸々にレイプ体験を書き、売春体験を明かす。そのどの描写にも、男と女の権力関係がはっきりと映し出され、しかもそこで支配的にふるまう男たちもまた「戦時には国家のもの」であり、「勝者になれるのは、数人の指導者たちだけだ」と明晰(めいせき)に指摘する。
したがって冒頭にも引用したような、露悪的にも思われかねない表現の数々はすべて「政治の産物」なのであって、そうした構造の核心を突く力ゆえに、現在の#MeToo運動の中で見直されているわけだ。
さらに『さよなら、男社会』を読みたい。これは多くの人をインタビューしてきた書き手である男性、尹が自ら育ってきた環境や体験をじっくりと丁寧に語りながら、男性性がいかに頑迷に造り上げられてしまうかを解き明かそうとする。
そこにもヴィルジニー・デパントが指摘した「政治の産物」が出現する。「『みんなと違う態度をとる』ことは権力を保持するシステムに亀裂を走らせる」、と。つまり権力は自らの保持のために、男たちをもって社会を支配する。「男らしさ」を喧伝(けんでん)することで、それこそ「数人の指導者たち」だけが生き残る構造だ。
デパントはそれを、読者の神経を逆撫(さかな)でしながら明るみに出した。尹は例えば自ら多数の女性の声を聞くことで浮き彫りにした。
方法の違いは時代の変化だろうか。今は男社会に向けて、意思の強い手が多く振られているはずだ。
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Virginie Despentes 1969年生まれ。フランスの作家▽ゆん・うんで 1970年生まれ。インタビュアー、ライター。