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森見登美彦「四畳半タイムマシンブルース」 初期作キャラに読者も納得 KADOKAWA・小林順さん

 森見登美彦さんとの出会いは2004年に遡(さかのぼ)る。私は駆け出しの文芸編集者、森見さんはまだ大学院生で、前年に『太陽の塔』でデビューしたばかりだった。年が近く、同じ関西出身で何かと馬が合い、打ち合わせで京都に出かけるのがいつも楽しみだった。

 06年秋に刊行した『夜は短し歩けよ乙女』で森見登美彦の名は一躍注目を集めたが、書籍編集を担当した私にとっても忘れられない一冊となった。『ペンギン・ハイウェイ』を経て、10年ぶりに担当した単行本がこの『四畳半タイムマシンブルース』である。

 本作はヨーロッパ企画の上田誠さんが書いた演劇「サマータイムマシン・ブルース」が原案で、夏休みの2日間に大学生たちが安アパートに突然現れたタイムマシンを巡って奔走するSFコメディーだ。森見さんの初期作品『四畳半神話大系』のキャラクターが多数登場するのだが、同作にはファンが多いだけにかえって不安もあり、予定したイベントが新型ウイルスで開けない不運も重なった。

 ところが、発売されるや瞬く間に重版に。森見さんの描く大学生の物語を待っていたという声、面白くて一気に読んだとの感想を目にするたび、読者の期待に応えられたと胸をなでおろした。今では私も森見さんもいい年になったが、関係は変わらない。出会った頃に戻るのにタイムマシンは不要だし、これからも共に良い作品を読者へ届けられたらと願っている。=朝日新聞2021年3月3日掲載