さまざまな女たちの出会いを描いた短編集。どの話も主人公の前にいきなり「よくわからない人」たちが登場する。老女から小学生まで、さらには吸血鬼や人魚にいたるまで、何を考えているのかよくわからない、ちょっと奇妙な他人が現れ、思わぬなりゆきで共に過ごす時間の中で、2人の関係の隔たりと深まりが描かれていく。
相手を理解できないながらも、近づく2人の間柄は、男女だったらよくある恋愛物語のパターンに陥りそうだが、描かれているのは同性同士なので、そんな引力からは自由に読める。その上で、ドラマの中で不意打ちのようにやってくる心の「近さ」に、読む者の気持ちは強く揺さぶられる。その感情をなんと名づけていいのか。恋、友情、憧憬(しょうけい)、共感、親愛……そんな名前がついてしまう一歩手前の瞬間が、マンガの空気の中にとらえられていく。
他人は自分とは違うのだから、お互いの距離は完全には埋まらない。しかし何かつながったかのような一瞬に触れることはある。どの物語も、またたくまに消えてしまいそうなその一瞬に向けて、ていねいに描写が積み重ねられている。繊細でしかも力強い表現が強く心に残った。=朝日新聞2021年3月20日掲載