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「ブラック・ライヴズ・マター回想録」書評 正当性を傷つけるレッテル貼り

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2021年05月01日
ブラック・ライヴズ・マター回想録 テロリストと呼ばれて 著者:パトリース・カーン=カラーズ 出版社:青土社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784791773527
発売⽇: 2021/02/22
サイズ: 19cm/333p

アメリカで黒人女性として生きる経験とはいかなるものか。ブラック・ライヴズ・マター運動を牽引するクィア・フェミニストが綴る、あらたな公民権運動を展開する人々をめぐる、詩的で…

「ブラック・ライヴズ・マター回想録」 [著]パトリース・カーン=カラーズ、アーシャ・バンデリ

 BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動を緒につけた3人の女性の一人、パトリース・カーン=カラーズが主著者である本書は、運動の内容、手法、成果を克明に示している。特に、彼女が人生を通して、自由を獲得しようと奮闘する姿に胸を打たれた。
 兵役中からの麻薬の習慣、トラウマと鬱(うつ)に苦しむカラーズの父は、生計を立てるために麻薬商売人になってしまう。銀行や役所は暗黙裡(り)に黒人を差別し、退役軍人向けの援助プログラムは彼には無益だった。双極性障害を患っていた兄は、躁(そう)状態の時に警官にゴム弾とスタンガンで撃たれ逮捕される。黒人には精神障害を認めないのか、とカラーズは憤る。
 私は自分の専門である、中国や香港の社会運動、民族問題との比較の観点からも、本書に関心を持ち、なかでも「テロリストと呼ばれて」という副題に惹(ひ)かれた。中国政府は、ウイグル族などトルコ系イスラム教徒が主にテロ事件を起こしているとし、香港では、新たに導入予定の国家安全教育の教材で、2019年のデモをテロのリスクと関連させて説明する。
 為政者に異議を申し立てると、社会秩序に混乱を招く「テロリスト」のレッテルを貼られる傾向は、世界で共通しているのか。BLM運動の反対勢力は、活動家をテロリストと呼び、人種差別反対運動の正当性を傷つけようとした。白人至上主義の暴力団体を、テロリストと見なすことはまずないというのに。
 常に監視され、疑いをかけられる黒人が、私の目には中国の陳情者やウイグル族のイメージとダブった。いびつな予算が米国の警察に軍隊並みの重装備を許容してきたというが、中国、香港の治安維持システムも似た問題を抱える。
 差別や偏見、恐怖感が生じるのは人間に共通する弱さゆえだ。力の均衡が崩れ、弱者を追い込む構造は、人間社会の普遍的視野から分析できるはずなのだ。
    ◇
Patrisse Khan-Cullors アーティスト、社会活動家 ▽asha bandele ジャーナリスト。