1. HOME
  2. コラム
  3. コミック・セレクト
  4. いましろたかし「未来人サイジョー」 凡人のマンガ家アシスタントがタイムスリップ、未来を先取りしても続く戦い

いましろたかし「未来人サイジョー」 凡人のマンガ家アシスタントがタイムスリップ、未来を先取りしても続く戦い

 とんでもない時代になったものだ。高度経済成長の終焉(しゅうえん)から50年、政治も経済も社会も地盤沈下を続けてきた日本だが、まさかここまで壊れた世の中になるとは思いもしなかった。そんな中、職を失い都落ちし、「ああもう何もかもうんざりざんす…」なんて言っていたお先真っ暗な初老のマンガ家アシスタントが、突然1970年の日本に飛ばされ、あらためてマンガの道を目指すというタイムスリップものの物語だ。

 輝いていた気がする昭和の時代、実際はどうだったのだろう? 当時を生き直すとしたら何をするだろうか。しかも未来を知っているはずの主人公は、圧倒的に有利な立場だ。もしかしたら世の中を動かすことだって、世界を変えることだってできるかもしれない。が、現実にやれることといったら、これから流行(はや)るはずのマンガのネタを先取りしてパクることだけ。マンガ業界でぎりぎり生き延びるための、地道でしかし緊張感ある戦いの日々が続く。

 浮世のありさまも、自分の心境も、すべてを一定の距離感で「…ざんす」と語る主人公のスタンスが、読むほどに味わい深くなる。壮大なる凡人のタイムスリップドラマに、しばし心がざわついた。=朝日新聞2021年5月15日掲載