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三島由紀夫賞の乗代雄介さん『旅する練習』、山本周五郎賞の佐藤究さん『テスカトリポカ』講評

(左から)乗代雄介さん、佐藤究さん=東京都港区、興野優平撮影

 第34回三島由紀夫賞と山本周五郎賞が14日に決まった。三島賞は乗代雄介さん『旅する練習』(講談社)、山本賞は佐藤究(きわむ)さん『テスカトリポカ』(KADOKAWA)。それぞれの評価について、選考委員による講評で振り返る。

 三島賞は候補5作の評価が分かれ、選考委員の川上未映子さんは「はたして決まるのだろうかというようなぐらい、非常に白熱した議論になりました」と述べた。委員5人による投票と議論を重ね、最終的には『旅する練習』と、李琴峰(りことみ)さん「彼岸花が咲く島」で決選投票。3対2で乗代さんの受賞が決まった。

 『旅する練習』は、小説家の主人公が風景描写の練習をしながら、姪(めい)の少女と歩いて旅をする小説。ノートに書いた風景描写を作中に挟み込む試みなど、「メタフィクションの構造を作り出し、その完成度の高さに評価が集まった」。

 一方で、山本賞は最初の投票から「ほぼ満場一致でした」と、選考委員の江國香織さんが語った。受賞作は、メキシコの古代アステカ文明と日本の川崎市をつなぐノワール小説。「発想の豊かさ、リサーチの徹底ぶり、緊密な文体が圧倒的だった」と評価された。麻薬や臓器売買を扱うが「詩的なところもあって、読んでとにかく面白い。私は選考する人間として読み始めたんですけれど、そのことを忘れて読みふけってしまいました」と称賛した。

 次点は、砂原浩太朗さん『高瀬庄左衛門御留書』。「時代小説だけれど現代的でもある。上品な一方で、きれいにまとまりすぎている」との評価だった。(山崎聡)=朝日新聞2021年5月19日掲載