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谷原章介さんがコロナ禍で向き合った5冊 豊かさ・家族・そして人生とは……ニューノーマルの生き方を見つめ直す

1. 家族や故郷、大切な仲間への思いがこもった自伝エッセイ さだまさし『さだの辞書』(2020年7月24日公開)

 75回目となる終戦記念日の直前、長崎出身の歌手、さだまさしさんの自伝的エッセイを取り上げました。経済だけでない豊かさや幸せとは何か。さださんは、原爆で壊滅的な被害を受けた長崎で幼少時代を過ごしました。その姿は、谷原店長がコロナ禍での生き方を見つめ直すきっかけとなったようです。

 印象に残る一文があります。それは幼少の頃の記憶を描く章のなかで綴られた「貧しいけれども不幸せではなかった」という言葉。この頃の長崎はといえば、原爆が落とされ、壊滅的な状況からようやく立ち上がり、皆、貧しいけれども、前向きに生きていこうと模索し始めた時代です。「きょう頑張れば明日はもっと良くなる」。そう信じてなんでも乗り越えていきました。(中略)

 さきの戦争で、コテンパンに叩きのめされた日本。そこから見事に立ち上がり、豊かになった日本。その後の「空白の数十年」を経た今、僕らは世界に類を見ない高齢化社会に直面しています。過去のような著しい経済成長期とは違う「新しい幸せのモデル」を見つける、「幸せとはなんなのか」を考える時期に来ているのではないでしょうか。コロナ騒動の禍中にあって人生観を見つめ直す人の増えた今、僕たちは大きな岐路に立っている――、そんなことを思いました。

【谷原店長のオススメ】家族や故郷、大切な仲間への思いがこもった自伝エッセイ さだまさし『さだの辞書』

2. 息苦しい時代を生き抜く極意がつまったエッセー集 北方謙三『生きるための辞書 十字路が見える』(2020年4月24日公開)

 新型コロナの緊急事態宣言が全国に拡大し、日本中が静まりかえっていた頃。撮影が止まり、家にこもる日々だった谷原店長も、未曽有の事態を生き抜くための手がかりを、北方謙三さんの生き方がにじみ出たこの本に求めました。

 感じるのは志を持つことの大切さ。そして、「清濁を併せ飲む」ことの意味。つまり、自分自身でバランスを取り、現実の中でいかに折り合いを付けるのか。改めて考えさせられます。

 行動に出ないで閉じこもっていれば、傷つくこともない。その代わりに、何の出会いも感動もない。そのうち、人生の色彩さえも失ってしまうかもしれない。反対に、何かしら行動を起こせば、ケガをするし失敗もあるかも知れない。ただ、思いもかけない出会いや発見があったり、道が開けたりもする。「じゃあ、お前はどういう生き方を選ぶ?」この本で北方さんは、まっすぐな視線で問いかけてくるのです。

【谷原店長のオススメ】息苦しい時代を生き抜く極意がつまったエッセー集 北方謙三『生きるための辞書 十字路が見える』

3. 人見知りの小説家と両親を亡くした姪、年の差20歳の手探り共同生活 ヤマシタトモコ『違国日記』(公開日: 2020年11月27日)

 事故死した姉夫婦の娘を引き取った小説家が、共同生活でぶつかり合いながらも徐々に年の差を埋め、心を開いていく物語の漫画。コロナ禍で疎遠になっていく人と人とのつながりを取り戻したい。谷原店長はそんな思いに強くかられました。

 最近は、他人を傷つけることを怖がる傾向が強いと感じるのですが、それは皆、自分自身が傷つきたくないからなのかも知れません。コロナの今、ひとと触れ合えず、握手さえできず、距離は広がるばかりです。このままでは愛することも、愛されることも無くなってしまうのかもしれない。それが僕は怖い。誰かと相対するからこそ、人間には変化が生まれます。ひとりでいたら、ぐるぐる同じ場所をまわるだけ。空気は澱み、何も変わりません。

 『違国日記』のなかのひとたちは、傷つき、ぶつかりながらも、きちんと意見を持ってがっぷり四つに相対している。今の時代だからこそ読んで欲しい作品だと思います。

【谷原店長のオススメ】人見知りの小説家と両親を亡くした姪、年の差20歳の手探り共同生活 ヤマシタトモコ『違国日記』

4. キッチンガーデンと共に愉しく暮らす つばた英子/つばたしゅういち『きのう、きょう、あした。』(2020年3月27日公開)

 夫を亡くし、生まれて初めての一人暮らし。そんな89歳女性の菜園生活を追った本。新型コロナで学校が休校となるなど、家にこもる生活が始まった頃の記事でした。息の詰まる日々だからこそ、日々の生活から見つめ直し、見過ごしていた楽しさを取り戻してみよう。そんなきっかけになったようです。

 美味しそうな料理もいっぱい出てきます。ハブ茶、ゆべし、栗タルト、ブリの煮物、治部煮……。爽やかそうなライムティーも美味しそう。我が家の庭にもスダチ、カボス、レモン、柚子、甘夏と柑橘系が豊富。清涼感のあるライムもその仲間に加えてみよう。

 季節を経て章立ての進むこの本からは、時のうつろいを大切に過ごす英子さんの思いが伝わってきます。全てではなくて良いので、本のなかから「これなら向いている」「ちょっとやってみようかな」と思うものを無理せず採り入れれば、生活が豊かになるかも知れません。そして、何よりも「愉しく暮らす」。こんな今だからこそ、思い起こしてほしいと思います。

【谷原店長のオススメ】キッチンガーデンと共に愉しく暮らす つばた英子/つばたしゅういち『きのう、きょう、あした。』

5. 闘病中の最愛の人に紡いだ短編と結婚生活を振り返ったエッセイを収録 眉村卓『妻に捧げた1778話』(2020年10月23日公開)

 新型コロナウィルスは直接、そして間接的にも多くの人の命を奪っていきました。SF小説家の眉村卓さんが、余命宣告された妻との日々をつづった1冊を、谷原店長は涙なしには読めませんでした。

 最後のページをめくる時は、涙が止まりませんでした。眉村さんがこの章にどれだけの思いを込められたのか。もう何だか……、言葉が出ないほど胸が苦しくなるのです。眉村さんのすべての思いがこのページに詰まっています。奥さまの病や、ご自身が置かれている現状、感情に、これまでずっと理性的に向き合ってこられた眉村さんの「心の軋み」が現れます。ここまで奥さまのために貫き通した眉村さんを、僕はただただ尊敬します。

 家族との距離感について考える機会が増えた今こそ、身に染みる1冊だと思います。もちろん、珠玉のショート・ショート集として、純粋に楽しむこともできますよ。そして映画の中で奥様役を演じた竹内結子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

【谷原店長のオススメ】闘病中の最愛の人に紡いだ短編と結婚生活を振り返ったエッセイを収録 眉村卓『妻に捧げた1778話』