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北村みなみ「グッバイ・ハロー・ワールド」 柔らかな描線が紡ぐ難しい未来

 アニメーション作家でイラストレーターの著者によるSF短編集だ。連載誌が、テクノロジーがもたらす未来を考えるカルチャー誌「WIRED」日本版なだけに、題材は安楽死や食糧危機、環境汚染に遺伝子組み換えと幾分(いくぶん)シビアになっている。

 「点滅するゴースト」では、人工的なアルゴリズムが人生に関与する不安を感じる女性が描かれ、「サマタイム・ダイアリー」では、進化したAR(拡張現実)機器によって可能になったある少年の選択が描かれる。「来るべき世界」に登場するのは、環境汚染の反作用から生まれた新人類だ。

 バリエーション豊かな9編の物語の中には、荒廃した未来もある。しかし、そんな難局にあっても人々は、テクノロジーの恩恵や余波を受けた時代を鋳型に、生き方や思考をしなやかに変化させている。それでいて芯の部分は今を生きる私たちと地続きで、それがなんとも頼もしい。

 柔らかな線で紡がれた可愛らしいキャラクターや背景は、無機質な未来に生きる人の営みを有機的に見せることに成功している。ドミニク・チェンら7人の識者によるコラムもいい。判型が大きく、物質としての存在感もある。そのアナログな佇(たたず)まいも魅力的。=朝日新聞2021年8月21日掲載