1. HOME
  2. 書評
  3. 「テレビ・ドキュメンタリーの真髄」書評 代弁どころか加害側という自覚

「テレビ・ドキュメンタリーの真髄」書評 代弁どころか加害側という自覚

評者: 戸邉秀明 / 朝⽇新聞掲載:2021年09月25日
テレビ・ドキュメンタリーの真髄 制作者16人の証言 著者:小黒 純 出版社:藤原書店 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784865783148
発売⽇: 2021/07/19
サイズ: 22cm/543p

「テレビ・ドキュメンタリーの真髄」 [編著]小黒純、西村秀樹、辻一郎

 ドキュメンタリーはどうやって出来るのか。ライフワークとなる主題の発見から、取材・公開でぶつかった難問や、こだわりの核心まで、本書では、第一線で活躍してきた16人の自分史が、現場をよく知る編者との対話で引き出される。
 焦点はテレビで発信することの可能性にある。伊東英朗の「放射線を浴びたX年後」や阿武野勝彦の「人生フルーツ」など、近年では映画化が盛んだ。それでもテレビという「伝達手段」の影響力は依然大きい。
 社会の矛盾や権力の横暴への怒り、知り得た者の使命感は共通している。原発・公害・基地・冤罪(えんざい)・炭鉱・過疎・戦争。主題は様々だが、地道な調査と、職場内の連携や世代継承を通して、劣化が急速に進む同時代史が炙(あぶ)り出される。
 途中でテレビを消されないように、「こっちの世界に連れてきて、終わるまで離さない」工夫をいかにこらすか。東京への一極集中を覆し、地域の課題を掘り下げて民放地方局の存在感を高めるには、何ができるか。貪欲(どんよく)なまでの挑戦と健闘ぶりは頼もしい。
 ドキュメンタリーに感動や正義の押し売りを感じる人は多い。本書の語り手が、それを免れているのはなぜか。当事者と信頼関係を築くなかで、自分たちが彼らの代弁者どころか、加害に手を貸す側の当事者だと気づいたからだ。出身地の水俣病を避けてきた村上雅通は、目を背けてきた「自分の空白」を取材で初めて知る。食い下がって西山太吉を撮った土江真樹子が見いだしたのは、沖縄報道における自分たち「メディアの敗北」だった。映像に現れない、制作者が苦悩を乗り越える瞬間は、本書の最大の魅力と言える。
 気になったのは、顔のボカシや字幕の多用が、映像の力を痩せ細らせているとの危機感が、異口同音に聞かれる点だ。過剰な忖度(そんたく)は、視聴者が番組を批評する力の成長を阻むだろう。その克服には、作り手と観(み)る側の協働がますます必要だ。
    ◇
おぐろ・じゅん 同志社大教授▽にしむら・ひでき 元・毎日放送。報道局など▽つじ・いちろう 同。主に報道畑。