- 救国ゲーム
- SIP 超知能警察
- ディープフェイク
DNA鑑定を代表として、現在の警察の捜査技術は日進月歩だが、それは、捜査の対象となる犯罪もまた技術の進歩を取り入れているということでもある。今回は、現代の最先端の技術を反映したミステリーを紹介する。
結城真一郎『救国ゲーム』では、過疎集落を復活させて国民的スターとなった人物の首なし死体が発見される。動画投稿サイトで犯行を告白した匿名の人物《パトリシア》は、あらゆる政策資本を大都市圏にのみ集中投下せよという過激な主張のもと、地方在住のすべての国民を人質として、ドローンによるテロを予告する。
この犯罪に立ち向かうのは、性格に難ありながら切れ者の官僚・雨宮雫だが、彼が犯人だと推理した人物には鉄壁のアリバイがある。ドローンを使った緻密(ちみつ)極まるアリバイ・トリックをいかに崩すかというプロセスは、最先端の技術と、F・W・クロフツや鮎川哲也による往年のアリバイ崩し小説の味わいとを融合させていて秀逸だ。
現役のAI研究者でもある山之口洋の久しぶりの新作『SIP 超知能警察』は、近未来においてAIによる捜査でテロリストなどを取り締まる科学警察研究所の研究者・逆神崇たちの活躍を描いている。警察庁副長官から逆神に下った密命は、一見無関係な三つの事案の調査だった。AIを駆使した調査の果てに、浮かび上がってきた巨大な謀略とは。
作中では朝鮮半島がひとつに統一されており、当然ながら日本の地政学的位置づけも大きく変容している。『救国ゲーム』が「本格ミステリー+ポリティカル・サスペンス」なら、こちらは「警察小説+ポリティカル・サスペンス」。警察の捜査技術の未来と国際情勢の未来を見据えた、説得力豊かな物語に仕上がっている。
福田和代『ディープフェイク』では、実際の映像と見紛(みまが)うほど精巧なAIによる画像合成技術「ディープフェイク」が、中学校教師の湯川を追いつめてゆく。女子生徒との密会や生徒への暴力など、全く身に覚えがない映像が世間に流布してしまうのだ。
人間は、実際には写真や映像が加工可能であるにもかかわらず、そこで見たものを無条件に信じがちだ――湾岸戦争の際に流布した油まみれの水鳥の写真が、実際には米軍の攻撃で流れた油によるものだったのに、イラクの蛮行の象徴として世界中が騙(だま)されたように。本作でもフェイク映像のせいで、出勤停止、ネットでの炎上、家族間の亀裂など、湯川を取り巻く環境はたちまち地獄と化す。最先端技術を悪意ある人間が手にした場合、どんな恐ろしい事態が生じるかを示した物語だ。=朝日新聞2021年11月24日掲載