1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 異色の経歴を持つ作家のデビュー作「シリア・サンクション」など村上貴史が薦める新刊文庫3冊

異色の経歴を持つ作家のデビュー作「シリア・サンクション」など村上貴史が薦める新刊文庫3冊

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『シリア・サンクション』 ドン・ベントレー著 黒木章人訳 ハヤカワ文庫NV 1386円
  2. 『だから殺せなかった』 一本木透著 創元推理文庫 792円
  3. 『殺し屋、続けてます。』 石持浅海著 文春文庫 814円

 陸軍やFBI所属の経歴を持つ著者のデビュー作が(1)。国防情報局のドレイクは、三カ月前に仲間が片腕を失い、自身も心に深く傷を負ったシリアへの再潜入を決意した。新型化学兵器のカギを握る科学者を確保し、囚(とら)われた仲間を奪還するために……。ドレイクが次々と難題に立ち向かっていく冒険活劇小説だ。彼を襲う生々しい危機がエスカレートしていく様も、へらず口と知略と胆力でそれを乗り越えていく様も、時々顔を出す洋楽(イーグルスなど)の活(い)かし方も痛快。本書はさらに四日後の米国大統領選を巡る暗闘も描いており、その攻防も刺激的だし、それがシリアに影響を与える造りも巧(うま)い。迫力とともに一気読みを堪能。

 (2)もデビュー作。鮎川哲也賞優秀賞という作品だ。連続殺人犯から新聞記者に届いた一通の手紙を契機に、記者は次の殺人をにおわす犯人と紙上で対決することとなった……。この公開書簡型の闘いがまず熱い。正義とは、報道とは、そして言葉とは。二人の対決の延長線上にしっかりと驚きが仕込まれている点も嬉(うれ)しい。殺人者と記者を通じて、そして一人の若者を通じて、最後まで人の生き方を考えさせる一冊。

 (3)は殺し屋の男が依頼を遂行するまでの間に様々な謎を、それもいわゆる日常の謎を解くことを基本形とする短篇(たんぺん)集。シリーズ第二弾となる本作では、殺し屋の調査と推理による謎解きに加え、各短篇の展開や視点人物のバリエーション、さらに連作としての妙味も堪能できる。上質で贅沢(ぜいたく)なミステリだ。=朝日新聞2021年12月11日掲載