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『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」 中村哲が本当に伝えたかったこと』 困難に向き合う中に働く意味を発見する入り口がある

 アフガニスタンで人道支援に長らく従事され、2年前に凶弾に倒れ亡くなった中村哲さんが、NHKの「ラジオ深夜便」へ6回出演した際の話などを再構成した一冊。1990年代から2000年代にかけての彼の活動と思いが時系列で構成されており、支援の内容も知ることができる。

 「社会を変革するような大きな働きがなぜできたのか」という視点からこの本を読むと、仕事にどのような姿勢で臨むのが大切なのかが浮かび上がる。医療支援から灌漑(かんがい)用水路の建設へと展開する過程などは、押し付けでない意味のある働きをするためには「何かを分け与える」という視座ではなく、「相手から学ぼう」という姿勢が不可欠なのだと教えてくれる。

 また、仕事の意味をどう深めていくかについても示唆に富む。周りの求めに応じる中で学んでいった「セロ弾きのゴーシュ」に自らをなぞらえる中村さんは「遭遇する全ての状況が」「天から人への問いかけである。それに対する応答の連続が、即(すなわ)ち私たちの人生そのものである」と語る。

 この言葉は、日々の困難に誠実に向き合う中にこそ、自分が働く意味を発見する入り口があることを教えてくれる渾身(こんしん)のメッセージである。=朝日新聞2021年12月18日掲載