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絵本「おたすけこびと」のなかがわちひろさん、コヨセ・ジュンジさんインタビュー こびとが重機で作ったものは・・・?

文・写真:加治佐志津

重機を描くのは難しい

―― 家族の留守中、ママからの依頼を受けてキッチンにやってきたのは、ショベルカーやブルドーザーなどの重機を操るこびとたち。卵にバター、小麦粉、砂糖を混ぜて、重機フル稼働で作ったものは……? 『おたすけこびと』(徳間書店)は、こびと×働く車という組み合わせが魅力の絵本だ。独特の世界観は、なかがわちひろさんのアイデアから生まれた。

なかがわちひろ(以下、なかがわ):以前、『きょうりゅうのたまご』(徳間書店)という絵本を作ったことがありまして。主人公の男の子がショベルカーを使って、恐竜のお母さんの卵探しを手伝うお話なんですが、これはもともと、恐竜と重機が大好きだった息子のために作ったプライベートの絵本だったんですね。それを編集者さんから絵本にしないかと言われて、本格的に描くことにしたんです。

恐竜と男の子の絵はそれなりに描けたんですが、重機を描くのがとても難しくて。だいいち、描いてて全然面白くない。でもがんばらなくちゃと思って、編集者さんと一緒にコマツテクノセンタの取材に行きました。

『おたすけこびと』(徳間書店)より

コマツテクノセンタは広大な敷地のショールームで、スタッフが目をキラキラ輝かせて説明をしてくれました。重機にあそこまで熱くなれるんだ…と感心したくらい。取材を終えて、缶コーヒーを飲みながらくつろいでいたとき、大きなウィンドウの向こうに、いくつもの巨大な重機が動いているのが小さく見えたんですね。それをぼんやり見ていて、ふと思ったんです。あっちはバターを削ってるみたいだし、こっちは粉をぐるぐると混ぜてるみたい。あの重機とこの重機を使ったらケーキができそうだなと。そんな思いつきを編集者さんに伝えたら、それで絵本を作ろう!ということになりました。

ただ、重機を描くのはもううんざりで……。情熱の温度って絵に表れますからね。そういう熱のこもった絵を描ける人が見つかれば、という話になったのが、『おたすけこびと』のスタート地点です。

4年の歳月をかけて完成

―― 編集者が候補として挙げたイラストレーターの一人がコヨセ・ジュンジさんだった。ポートフォリオの中の、細かなところまで丁寧に描かれたオートバイの絵に情熱を感じ、コヨセさんに絵を任せることになる。

コヨセ・ジュンジ(以下、コヨセ):絵本は作ったことがなかったんですが、重機のような無骨で、線がやたらと多い物体を描くのは、さほど難しくないと思って引き受けました。

ところが、なかがわさんが考えていたこびとと、私が考えていたこびとは、最初まったく齟齬があったんです。私は色のついた点がわーっとダイナミックに動いていくような感じで考えていたんですが、それじゃだめだ、全員に顔と表情がないと、と言われて。

『おたすけこびと』(徳間書店)より

なかがわ:コヨセさんがざっくりと鉛筆で描いた重機の絵に、息子が「これだよ、これ」と言ったんです。私が描いた『きょうりゅうのたまご』の重機には冷ややかな反応しかしてくれなかったのに、「おかんの絵になかったものがここにある」と。絵に込められた愛情というか情熱というか、そういうものが伝わるんでしょうね。そういう意味では、コヨセさんを選んだのは大正解だったんです。でも、こびとは点で描くと聞いたときにはびっくりしてしまって。

私は、働く車に興味のない家族も一緒に楽しめる絵本を作りたいと思っていたので、コヨセさんとは何度もやりとりして、これはこびとの物語でもあるからと伝えました。でもその後も、点が棒人間に進化したぐらいで、それ以上描いてくれなさそうだったので、もうこの絵本はできあがらないのかも……と諦めたかけたこともあったんです。

―― コヨセさんに絵を任せてから完成まで、4年の月日がかかった。

コヨセ:試行錯誤の結果、やっとこびとの形ができたので、まず見返しの絵を描いてみたんです。こびとたちは普段どこにいて、どんな風に遊んでるんだろうと考えながら描いていたら、自分の子どもの頃のことを少しずつ思い出したんですね。幼稚園時代の写真を見たりもして、一人ひとりのことを思い浮かべつつ、自由気ままに描きました。

こびとたちが自由に遊びまわる様子が描かれた『おたすけこびと』(徳間書店)の後ろ見返し

なかがわ:これがすごくかわいくて、賑やかな声が聞こえてきそうな絵だったんです。長靴の中に小石が入って、それを出している子。画用紙に魚の絵を描いていたけれど、はみ出してしまったので、地面に大きく描き始めた子。どの子もとても生き生きとしていて、ずっと見ていても見飽きない。これぞ絵本の世界!と思いました。この日、このときをもって、コヨセさんはおたすけこびとの「お父さん」になったんです。

コヨセ:そこからは楽しくなって、逆に描きすぎってくらいたくさんこびとを描きました。こびとの身長は2.5センチという設定で、ヘルメットや上着、長靴の色で、仕事の役割も決めています。全部赤のこびとが交通整理担当、赤いヘルメットに青い上着、赤い長靴のこびとは現場監督、みたいにね。細かなところは、何度も読んでいるうちに10回目くらいで気づいてくれたらいいなと思って描いています。

『おたすけこびと』(徳間書店)より

世界で愛される「おたすけこびと」シリーズ

―― 『おたすけこびと』は小さな子どもたちからの熱烈な支持を受け、その後シリーズ化。2作目『おたすけこびとのクリスマス』から最新作『おたすけこびととおべんとう』まで、現在計7作が出版されている。フランス、アメリカ、ドイツ、中国、台湾、韓国、タイなど海外でも刊行され、世界で愛されるシリーズとなった。

なかがわ:実はコヨセさんとは最初、編集者さんを通じて会わずにやりとりをしていたんですが、1作目完成の打ち上げのときに初めてお会いしました。2作目以降は毎月、私とコヨセさんと編集者さんとで集まって、「おたすけ会議」を開いています。このおたすけ会議がとっても濃密で楽しい時間なんですよ。コヨセさんは苦しいかもだけど。

シリーズ4作目『おたすけこびととハムスター』(徳間書店)表紙ラフと実際の表紙。実際に描く際は真横からのアングルが採用された

コヨセ:1作目で世界観ができあがっていたのと、次の会議までに何枚描いてきてねとお尻を叩かれるようになったこともあって、2作目以降はスムーズに描けるようになりました。おたすけ会議で原画を見せると、「ここはかわいい」とか「こんなのありえない」とか、ああだこうだ言われるんですけど、とりあえず「はいはい」とわかったふりをして、どうしようかと頭を悩ませながら描き直します。スケジュールも終盤になると、塗り残しのチェックもしてくれるので、絵の具を持ってきてその場で塗ることもありました。

―― シリーズを通して大事にしているのは、誰かを喜ばせようと一生懸命働く、素直で前向きな心だ。

なかがわ:1作目のときに、おたすけこびとの報酬について話し合ったことがあったんです。コインとか輪ゴムとか、いろいろ考えたんですが、コヨセさんが「いや、何もいらない。この子たちは、働いて誰かの役に立てることが一番の喜びなんだから」と言って、なるほどと。

子どもってお手伝いが大好きでしょう。お手伝いをして「ありがとう」と言われると、それだけでうれしいし、みんなで知恵を働かせて何か大きなことを成し遂げるのはとても楽しい。きっと世界には、そんな強くて心の優しい子がいっぱいいるはずで、そういう子どもたちの素朴な喜びこそ、この物語の核なのかなと思っています。