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BL担当書店員が選ぶ「いま推したいスパダリは彼だ!」

師匠がスパダリに!? 師弟関係から始まる恋(井上將利)

 こんにちは、年齢を重ねるごとに冬が寒く感じるようになってきた井上です。

 そんな悲しい挨拶はさておき、今回は冬の寒さをかき消してくれそうな「スパダリ」が登場する作品をご紹介。選ばせて頂いたのはカシオさんの「恋愛談義」(新書館)です。他にも「心を殺す方法」(祥伝社)など多数の人気作品を手掛けたカシオさんですが、とにかく描くキャラクターたちがクールで美しく、眼差しにドキッとさせられる、表現力がとっても魅力的な漫画家さんです!

 本作に登場する葉山は“一流の男”に並々ならぬ憧れをもつサラリーマン。地方から上京した彼は港区在住(安アパートだけど)×商社マン(小さな専門商社だけど)という自身のステータスにこだわりを持ち、一流の男であり続けようと毎日頑張っていました。そんな彼がある日、合コンで出会ったのはまさに葉山の理想を体現したかのような一流の男・三枝(さえぐさ)でした。港区育ちで20代にして会社経営者という三枝に対し「完敗だ……」と打ち砕かれた葉山は「俺を弟子にしてください!」と頼み込み、2人の不思議な関係が始まっていきます。

 言わずもがな三枝が今回のテーマでもあるスパダリでして、何においてもスマートな立ち居振る舞いが葉山をドキッとさせることもしばしば。

 ちなみに僕が最もテンションが上がったシーンがこちら。

「恋愛談義」より ©カシオ/新書館

 悪い男に利用されそうだった葉山を三枝が助け、その後の一幕。

 キスしそうで……しない! そして「俺が悪い男じゃなくてよかったな」と言い放つ三枝に、ひゃー!と心の中で叫びました(笑)。さらに、この時の葉山の表情も見て頂きたい! 緊張で口元がガチガチになっているのが伝わってきますね。この葉山というキャラクターは “完璧な男” に憧れを抱いているけれど実際の彼はとてもピュアで清らかな人間というギャップがとても良くて、そこに可愛さを感じられるはず。

 さて、師弟関係は今後どうなるのかと言うと、あんな事やこんな事があるわけですが……、物語が進んでいくうちに三枝の秘められた一面が見えてきたり、新たなキャラクターが登場したりと彼らの距離は刻一刻と変化していきます。最後まで目を離せない2人の「恋愛談義」ぜひ皆さんも楽しんでください!

オメガバースの常識を覆す、規格外スパダリ!(原周平)

 男前でステータスも高くて品性がある、そんな理想の男になれる訳はないと分かっていても、BL作品の素敵なキャラクターには憧れみたいな感情も抱いてしまいます。今回ご紹介のスパダリが登場するのは、よつあしさん「僕のハイスペック彼氏様」(ふゅーじょんぷろだくと)です。

 本作は前提として、「オメガバース」の世界観となっています。「オメガバースって何?」という方は過去の記事をぜひ参考にしてください♪

「オメガバース」とは、生物学的な性として男女のほかにα(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)という3つの性があるという特殊設定のこと。この3つの区分は、基本的には社会的地位にも連動しています(上からα、β、Ωの順)。もともとは海外の二次創作から生まれたもので、作り手によって様々な解釈やアレンジがなされ、BLの中でも人気ジャンルの一つです。「オメガバース」とは? BL担当書店員がすすめる入門作品2選 より (一部加筆修正)

 舞台の幕開けで登場するのは、カフェで恋愛トークを繰り広げるΩの横道とβの田中。横道はバリタチ(攻め専門)のため、αの人と良い関係になってもフラレがちなことを愚痴っていました(一般的にはΩが受け)。そんな時、突然暴れ牛が現れ2人に向かっていきます……!! どんなシチュエーション!?となりますが、読んでいくうちに暴れ牛なんて序の口だった、と思うくらい突拍子もないギャグが満載なのでお楽しみに(笑)。加えて絶妙にセンスのある掛け合いが豊富で、思わず笑っちゃうのも本作の魅力です! それはさておき、危機が迫る2人の前に謎の男が颯爽と現れ、暴れ牛を手なづけ去っていきました。そして謎の男に一目惚れ状態になる横道……。

 後日、勤める会社で社長室に呼ばれると、そこにいたのはそう、2人を助けた男であり、社長の烏丸でした。もちろんαである烏丸ですが、Ωを見下すこともなく、横道に一般的な立ち居振る舞いについて教えを乞うたり、感謝の言葉を素直に口にできたり、今まで出会ったαと全然違うことに、横道はさらに惹かれていくのでした。

「僕のハイスペック彼氏様」より ©よつあし/FUSION PRODUCT

 なんだって望みのままにできるαの烏丸のまっすぐな言葉。ここが彼の素敵なポイントなのです! 地位や金を手にしても、それを振りかざしているようではスパダリではないのではないでしょうか!? 2人の前には種の違いだったり謎のアラブ人だったりと、色々と立ちはだかるのですが、烏丸の紳士的な人柄と行動力で乗り越えていきます。そして横道がお付き合いする上で最も気にしていた、攻め受けに関しても、誰にでも初めての経験はある、と自分が受けになることをすんなり了承し、極めつけは「安心しろ横道、俺が本当のセックスを味わわせてやる!」と、横道の想像以上の夜にしてくれるほどの男気っぷり。それなのにちょっと天然なところがあったり、一般常識とのズレが面白かったりと、ギャップが可愛すぎます。

 横道も脳内エロまみれ&考えていることがオモテに出すぎな感じではありますが(笑)、烏丸と一緒にいるために前向きに頑張る姿を見ていると応援したくなっちゃいます。そして周りを固めるキャラクターたちも個性的な面々ばかり! 田中を筆頭に烏丸の父やマリっぺ(謎のアラブ人)、それぞれが笑いとスパイスを提供してくれて、読んでいて本当に楽しいです。番外編でまさかの展開を見せた田中とマリっぺ、是非スピンオフでたっぷり見てみたいところです(笑)。

 ハッピーエンドで笑いの絶えない物語や、ちょっと他とは違うオメガバースを読んでみたい、という方に超オススメです!