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ハトリアヤコ「真夜中の訪問者」 心のざわめきを安らぎに変えて

(C)ハトリアヤコ/KADOKAWA

 人と人が出会い、交わり、やがて離れて、また近づいて。その時々に灯(とも)る小さな光のようなものを繊細かつユーモラスに描いた著者初の単行本となる短編集だ。

 「真夜中の訪問者」は、距離を置いていた通山くんと秀島くんの再会から始まる。あの時の心残りは、意外な形で通山くんの前に立ち現れるが、2人の関係性に新たな季節がやってきて、心に起きたざわめきが浄化される。「カタツムリ溶かす」も刺さった。過去に自分が放った言葉が長い年月を経て、鋭いブーメランになって返って来ることがある。ここに登場する一見クールな中田さんも、同窓会で気まずい記憶が呼び起こされて胸かきむしられる思いに。しかし、彼女は記憶に蓋(ふた)をするのではなく、むしろ解像度を上げていく。そこで新しい視点を獲得した彼女は、今後どういう道を歩むのだろう? そんなことを思わせてくれる余白もいい。突飛な展開の「日常ポリッジストーリー」は、そこはかとない不安や疎外感を抱えながら生きる現代人へのエールのように感じた。

 心の仄(ほの)暗い部分を安らぎに変えるとぼけた線で紡がれた全7作。ここには、愛(いと)しい物語が詰まっている。=朝日新聞2022年5月7日掲載