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フルポン村上の俳句修行 鎌倉で「ショート」な「丘サーファー」に

季節の波に乗ろう

 鎌倉駅のほど近く、すっかり日が落ちて「CLOSE」の看板がかかった朝食屋「COBAKABA」のドアを開けると、迎えてくれたのは店主の内堀いっぽさん。ここで月に1度、平日の夜に開かれているのが「COBAKABA句会」です。

 午後2時には営業を終えて、ワークショップやイベントなどを開くこの店で、内堀さんが句会を始めたのは2016年のこと。近所に住む俳人の小助川駒介さんが星野立子新人賞を受賞した話を聞いて、自分も「やってみたい」と名乗り出たのがきっかけでした。「母方のおじいさんが鹿児島で俳句をやってて、母の7人の兄弟姉妹はみんな俳句をやってたんです。それで葬式のときにそれぞれ俳句を書いてじいちゃんの棺に納めて。誰もそれぞれの句を知らないけど、じいちゃんだけが知ってる、という話を聞いて、かっこいいなと思ってたんです」

朝食屋「COBAKABA」店主の内堀いっぽさん

 高浜虚子が50年住み、店の裏手に虚子が夜な夜な句会をしていた料亭跡があったという鎌倉の土地柄も、後押しになったと言います。「海辺の街でサーフィンをたしなんでいる人が多いじゃないですか。サーフィンしない人は“丘サーファー”みたいな言われ方をするんですけど、海に入らない人も『季節の波に乗ろう』っていう。虚子もいたところだし、俳句をサーフィンくらいの気軽さでたしなんでもらいたいですね」

 思い描くのは、サーフィンにロングボードとショートボードがあるように、「君はロング?(短歌) それともショート?(俳句)」なんて会話が交わされるようになること。音楽に合わせて俳句を披露したり、「丘サーフ俳句大会」をしたりと「ポップな感じで」啓蒙活動もしていますが、「今のところ全然流行らない」と笑います。

2019年には参加者のクリエイティビティを結集して句集を制作した

兼題は「蛍烏賊」「行く春」

 4月18日の午後7時が近づき、参加者がぽつりぽつりと集まってきました。ミュージシャンに写真家、イラストレーターと、俳句以外にも表現の場を持つ人が多め。最初はみんな初心者でしたが、今はおのおの結社に入るなどして腕を磨いているといいます。あいにくの土砂降りの中、村上さんも現れて、総勢14人でいよいよ句会スタート。「蛍烏賊」「行く春」の兼題で作ってきた5句をまずは短冊に書く、伝統的なスタイルです。

 作者が分からないように短冊を交ぜて無記名で清書したあと、選句を開始。計70句の中からそれぞれ5句を選び、特選1句の句評とともに一人ずつ発表していきます。この日、最も多い7点を獲得したのは、なんと村上さんの「地球儀の正面を変え春の風邪」でした。

シゲヲ:春の風邪だからたぶんそんなに重たくはないんだけど、なんか体がだるいな、でもしんどいから横になっていようかな、っていう。でも地球儀を見るっていうのは、ちょっとどこかに行きたいなっていう気持ちを表しているのかなって思ったのと、地球儀の傾きが物憂い気分に呼応して、美しいなと思いました。

小助川:風邪をひいてるから、すごく狭い世界の中でできることの中で、「本をそろえる」とかはよくあるんですけど、「地球儀の正面を変え」っていう。なんでもないことなんだけど、昨今のコロナとかウクライナとか、地球を取り巻くような問題を、ちょっと正面を変えることで変えてしまいたい。そんなことが無意識的にあるのかなと感じました。

シゲヲ:コロナの中にあっては、「春の風邪」って美しくさえありますよね。

村上:僕もこの季語を使いたいなと思って歳時記で調べて、風邪なんだけど深刻ではない、でも出かけるほどじゃない、という状態がいいなと。明るさとか、意外と外は天気がいいみたいな雰囲気があるなと思って。僕もちょうど(コロナで)自宅療養になったんですよ。後半は元気なのに部屋にいるっていう状態で、この句に結びついたのかもしれないですね。

金平糖と「行く春」

 続く4点句には小山待子さんの「ゆく春の棒倒るるまで砂くづす」「手は青き容れ物になり蛍烏賊」、はなさんの「蛍烏賊目玉転がる皿の底」、おいづさんの「金平糖ひと色残し春の行く」がありました。金平糖の句は2人が特選で選ぶ人気ぶりでした。 

小山:金平糖の形のかわいらしさとか、一粒の鮮やかさとか、口の中で一粒だけ溶けるときの薄い甘さというか。消えていく感じが「春の行く」って言葉にぴったりだなと思いました。

村上:金平糖がかわいらしくてまさに春っぽいんですが、それを残すということで春を惜しんでいることに重ねているようにも感じる。「行く春」自体はそこに心象的な意味合いはなく、時間的に春がただただ淡々と過ぎていくというのが取り合わさっていて、いいなと思いました。

地元俳句が話題に

 「なんとなく鎌倉っぽい、ゆるやかな感じの俳句が多い」と内堀さんが言う通り、身近な自然や日常の一瞬を読んだ句が集まるCOBAKABA句会。地元に住む人ならではの句も話題になりました。

みょん:悩んだんですけどやっぱりこれかなと思って、シゲヲさんの「箱乗りの三原順子や春の果」を特選にしました(笑)。三原順子が季語かなと思ったくらい、インパクトがあって。すごい「春の果」っぽくて、いただきました。

一同:(爆笑)

小助川:季語ではない(笑)。

シゲヲ:これ、半分実景なんです。先月、(地元の)逗子で選挙があって、すごい選挙カーが回ってたんだけど、最終日に自民党の候補が坂の下からあがってきて、「いま助手席に三原順子参議院議員が来ています、手を振ってます」って通り過ぎて。実際は見なかったんですけど、僕の中では箱乗りになってる三原順子が見えたんです。

内堀:(点は入らなかったけど)気になったのは、みょんさんの「縄文の遺跡の上の入学式」。

みょん:大磯小学校って、下が縄文遺跡なんです。

内堀:めっちゃ地元(笑)。さすがアースダイバーだね。

小助川:埋もれてるってこと?

みょん:運動場を広げようと思ったら遺跡が出てきたり、体育館を広げようと思ったらまた違う遺跡が出てきたり。

シゲヲ:住みやすそうなところだもんね。

 選を1点に換算して集計したところ、計12点を集めて1位に輝いたのは、村上さんでした。「さすが修行してるだけある。看板持ってかれちゃうみたいな」と内堀さん。久しぶりのリアル句会に村上さんは「リモート句会で人数が少ないときは変わり種とか、攻めた句を作るんですけど、今回は割と真正面から作りましたね。鎌倉は好きで、何年か前は一人でたまに来てました。『最後から二番目の恋』ってドラマのロケ地巡りで。雨が降っていないときにまた、遊びに来たいです」と話して、句会を締めくくりました。

村上さんの出句5句

地球儀の正面を変え春の風邪 7点
遠足や手品披露の子は敬語 3点
行く春やブリーチ剤の説明書 1点
トロフィーのごとき丸みの蛍烏賊 1点
飯店のサンプルケース春灯

【俳句修行は来月に続きます!】