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オートミールもいいけど 湊かなえ

 人生何度目かの(あまりにも無駄過ぎて数えるのをやめました)ダイエットブームです。急激に太ったわけではないけれど、外食の回数が増えたことと、薄着になってきたことで、ある日突然、どうにかしなければ、と危機感を抱いたのです。とはいえ、運動はしたくない……。

 ラクして痩せる方法はないものかと、食事について調べてみると、炭水化物の制限から「オートミール」に行き着きました。白米よりも食物繊維が豊富なのだとか。

 オートミールといえば、海外小説の、田舎の中流家庭の朝食によく登場していたけれど、子ども心に、食べてみたいとうっとりするような、おいしそうな描写を見たことは一度もありません。甘いお粥(かゆ)といった印象で、不味(まず)いものと勝手に決めつけていたほどです。

 しかし、世間では大ブームのようで、レシピ動画もたくさんあり、近所のスーパーで手に入ることから、試してみることにしました。

 水や牛乳などの液体と混ぜるとすぐにドロドロになるので、調理に手間がかかりません。パンやお好み焼きは小麦粉で作ったものとほとんど変わらず、これで充分(じゅうぶん)じゃないかと満足しました。米のような食感に仕上げることもでき、炒飯(チャーハン)や焼きおにぎりなど、味付けの濃いメニューには違和感もありません。

 そして、1週間後。3キロの減量に成功しました。空腹を感じることもなく、体調もよく、マイナス面が何一つない……、と報告したいところですが、私の場合、やはり白米が恋しいのです。そのうえ、おいしそうな塩昆布をいただきました。

 全部をオートミールに置き換えなくても、食べ過ぎなければいいのだと、米2合を丁寧にといで、「極上」にセットした炊飯器で時間をかけて炊きました。甘い香りの湯気の上がるご飯を、お気に入りの有田焼の茶碗(ちゃわん)に盛り、バターを1カケラ乗せて塩昆布を振りかける。

 「悪魔の天国ご飯」(勝手に命名)は1日で消えてしまいました。=朝日新聞2022年6月22日掲載