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中国の新疆政策のグロテスクな本質を明らかにする「新疆ウイグル自治区」 三牧聖子が選ぶ注目の新書2点

「新疆ウイグル自治区」

 熊倉潤新疆ウイグル自治区』(中公新書・946円)は、共産党政権による「解放」以降の新疆近現代史を描く。欧米は中国の新疆政策を「ジェノサイド(集団殺害)」と批判するが、著者は疑問を呈する。弾圧を過小視するからではない。中国の新疆政策は民族の破壊より改造を目指すからだ。1970年代にはセイフディンのように毛沢東に意見できるウイグル人幹部もいたが、以降、現地幹部の地位は低下した。今日ウイグル族は祖国中国を賛美し、共産党に忠誠を誓うしか生きる道がない。抑制的で誠実な筆致が、中国の新疆政策のグロテスクな本質を明らかにする。
★熊倉潤著 中公新書・946円

愛国の起源 パトリオティズムはなぜ保守思想となったのか

 将基面貴巳愛国の起源 パトリオティズムはなぜ保守思想となったのか』(ちくま新書・946円)は、「愛国」の意味を根源的に問い直す。今日では保守や右派の思想とされるパトリオティズムだが、そもそもは人類愛を説くコスモポリタンなものだった。それが自国の伝統や慣習に固執する後ろ向きの思想へと転化したのは18世紀、バークのフランス革命批判が大きく影響した。時代は変わり、相互依存を深める現代世界では、環境保全や経済格差の解消、国防ですら自国一国では実現できない。著者が説く国家を超えるパトリオティズムは、現実の課題である。
★将基面貴巳著 ちくま新書・946円=朝日新聞2022年7月2日掲載