「沙飛」書評 「中国のキャパ」の生涯見つめる
評者: 阿古智子
/ 朝⽇新聞掲載:2022年07月16日
沙飛 〈中国のキャパ〉と呼ばれた戦場写真の先駆者
著者:加藤 千洋
出版社:平凡社
ジャンル:写真集
ISBN: 9784582231328
発売⽇: 2022/04/22
サイズ: 20cm/222p
「沙飛」 [著]加藤千洋
戦場カメラマンのロバート・キャパならぬ、「中国のキャパ」と呼ばれた沙飛(さひ)(一九一二―五〇)。八路軍の従軍記者を務め、抗日戦争宣伝活動をも担った「英雄」だが、戦後、精神病を患い、護身用の拳銃で主治医の日本人医師を射殺、銃殺刑に処された。
沙飛は憧れの魯迅にどう接近したのか。手をつなぐ八路軍司令官と日本人幼女の写真はどう撮ったのか。沙飛の名誉回復にも関わった胡耀邦元総書記は来日時、どのような思いで射殺された日本人医師の妻子に会ったのか。
新聞記者出身の著者は沙飛の重要な仕事として、グラフ誌「晋察冀(しんさつき)画報」についても調べ、活動拠点の河北省の村を訪れている。
「自己陶酔に陥ることなく」、社会の改造と自由の回復のために現実を写し出そうとした沙飛。日中国交正常化から五十年が経ち、その知られざる生涯をみつめた本書は「日中友好」を演出せず、歴史と今をつなぐ問いを投げかけている。