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常喜寝太郎「踊れ獅子堂賢」 「なりたい自分」をめざす尊さ

(C)常喜寝太郎/講談社

 大手女性下着メーカーの2代目社長・獅子堂賢(40)。父の病気を機に半ば無理やり社長に据えられたが、強圧的な父が会長として実権を握ったままで、役員や秘書からも軽んじられている。そんな“お飾り社長”の立場で不完全燃焼の日々。ストレス解消にと以前通っていたボクシングジムに駆け込むと、そこは社交ダンス教室になっていた……。

 不惑を過ぎて逆に人生に惑う男が、ひょんなことから社交ダンスを始める――という導入は映画「Shall we ダンス?」を思わせる。見目麗しい女性講師に惹(ひ)かれる点も共通だ。ただし、映画で草刈民代が演じた世界レベルのダンサーとは違い、こちらの講師はなんと自社の新入社員。最終面接での立ち居振る舞いに感銘を受け、珍しく社長としての主張を通して合格させた人物だった。

 映画では家庭と自己実現の葛藤が描かれたが、本作は仕事との向き合い方が主題。仕事をダンスに喩(たと)える新入社員の言葉に感心する社長もどうかと思うが、年齢や性別を問わず「なりたい自分」をめざすことは尊い。周りの目を気にして一歩踏み出せない人への応援歌。ファッションがテーマの前作『着たい服がある』から作者の姿勢は一貫している。=朝日新聞2022年8月20日掲載