1. HOME
  2. コラム
  3. 猫派ですが、
  4. その人にだけ漂うオーラ 湊かなえ

その人にだけ漂うオーラ 湊かなえ

 先月末に音楽劇を観(み)に行ったところ、ある役者の方に「この人すごいやん!」と熱く感動しました。好きな声ではあるのですが、それだけではなく、その人にだけオーラのようなものが漂って見えるのです。歌やダンスや演技が上手というよりも、役に憑依(ひょうい)する天才タイプではないかと思います。「この人をもっと多くの人に知らしめなければ」という謎の上から目線で、「推し活」を始めることにしました。とはいえ、何をどうすればいいのかわかりません。

 自分にできることは何だろう、と熟考し、映像化の際に主演で出ていただける作品を一本書いてみよう、と決めました。決意が揺らがないよう、「推し活」では先輩である娘に宣言してみたところ、「やりすぎちゃう?」とのこと。確かに、小説を書かれるのは重くて気持ち悪いかもしれない、と却下、するのはもったいなく、久しぶりに集中力がフル稼働し、すでに筋書きまでできていたので、ひとまず保留に。

 とりあえず、仕事関係者には頼まないというマイルールを設け、今後のミュージカル公演のチケットを取ることに。抽選販売は片っ端から申し込み、先着販売は執筆よりも早打ちで。取れた公演を嬉々(きき)として手帳に書き込み、ふと冷静になります。私のカレンダーの白い日は、休日ではなく執筆日なのに、こんなに減らして仕事どうするの? というわけで現在、「チケットを取らない」と書いた紙を手帳の表紙に貼っています。

 過去作のDVDを購入し、「やっぱり天才だ」と評論家気取りで繰り返し視聴するも、一日の制限時間を決めなければ、やらなければならないことが山積するばかり。

 ここ数日は、次の公演を観に行くまでに5キロ痩せようと決め、「秋を先取り、きのこダイエットだ!」ときのこ類を大量に買い込み、料理に励んでいます。そんな、もはやご本人には何の得もない「推し活」邁進(まいしん)中ですが、平間壮一さん、全力で応援しています。=朝日新聞2022年8月31日掲載