日本初演から30周年を迎えるミュージカル『ミス・サイゴン』を観(み)てきました。なんと、初演を一緒に観た友だちとです。
当時の私たちは大学2年生。同作品は実物大のヘリコプターが飛ぶ場面があり、そのために改装された帝国劇場でしか上演されず、東京まで行くことに。席まで辿(たど)り着くだけでも大冒険でしたが、作品のスケールは道中の出来事を吹き飛ばすくらい圧巻で、物語の世界に引き込まれていきました。ベトナム戦争時のマダムバタフライ的展開に、終演後、友だちは大泣き。私は沸き上がってくる怒りや悲しみややるせなさを処理しきれずパニック状態に。感動に震えながら拍手をし続けました。
ユースホステルに泊まり、翌日は東京観光の予定でしたが、向かったのは帝国劇場。当日券の列に並び、立見席の券を買うことに。案内されたのは客席通路の階段で、2段分ずつ当てがわれ、チラシを敷いて座って観るようにと言われました。昨日の席よりよく見えてラッキー、と思えるのは若さの特権。初見の驚きがないぶん、物語の世界にさらに没頭することができました。
あれから30年。私も友だちも、結婚し、子どもが生まれました。同作品も別の人と観にいったり、海外で観たり、その時ごとに受け止め方も変わっていきました。ヘリコプターの場面も演出が変わり、今回は梅田芸術劇場で観ることに。
30年をどう感じるだろうと考えていたのに、会って5分、まるでいつもの待ち合わせ状態に。抽選販売で購入したチケットはかなりいい席で、アラフィフ二人がマダム然として座ったものの、互いに思い浮かんだのは階段席で、いい経験だったと笑い合い、幕が上がりました。終演後の反応が当時とまったく同じだったのは、私に関しては、あの頃の自分に戻っていたからではないかと思うのです。
次は『ミス・サイゴン』40周年、私たちは還暦を迎えます。赤い服で観にいこうと約束しました。=朝日新聞2022年9月28日掲載