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游珮芸、周見信「台湾の少年」 描線が変化、人生の激動描く

『台湾の少年』(2)から

 ある台湾人の激動の人生を全4巻にわたって描く伝記マンガだ。主人公の蔡焜霖(さいこんりん)は日本統治下の台湾で生まれ、日本語教育を受けながら育ち、終戦後は北京語を学んで国民党の政権下で暮らす。厳しい弾圧の続く白色テロ時代に政治犯の疑いをかけられて10年間収容所で暮らした後、出所後も戒厳令が続く台湾で出版人として生き、特にマンガなど児童文化の発展に大きな役割を果たした人物だ。

 困難を前向きに生き抜いていく主人公の姿には強く心を動かされるが、同時にそれを描くマンガ表現のこだわりも印象深い。素朴で手ざわりのある描線が、写実性とはちがうマンガだからこそのリアルさを発揮する。しかも描線はドラマの展開によって巧みに使い分けられ、大きく変化していく。少年時代の幸福感に満ちた鉛筆書きのような柔らかな線。それが無実の罪で逮捕された後は、まるで木版画のように暗黒の中から掘り起こした不安定な線へと変わり、解放後は一転して堅実な線で主人公のしっかりとした歩みがとらえられていく。2色印刷の色調もそれに合わせて巻ごとに変更されるなど、細部までこだわった作りになっている。急がず、1コマずつじっくりと味わうように読みたい作品だ。=朝日新聞2022年12月3日掲載