親になるのに免許が必要になった近未来を描くSF作品。少子化や虐待などの社会問題を背景に、子を育てる能力や環境などを国が審査し、合格した夫婦だけが親になれるという法律ができた世界だ。主人公はその審査官の1人。幼い姿ながら特別な訓練を積み、許可を受けようとする夫婦のもとで家族として一定期間暮らし、適性を判断する公務にあたる。さまざまな夫婦を見てきた彼が、なぜか最初から不合格を望む奇妙な「親」と出会うところから物語は始まり、かりそめの家族となった3人が過ごす日々を通じて、それぞれの過去や現在がじっくりと描かれていく。
現実にはこんな法律は無理があって成り立たないだろうし、へたをすると図式的な物語展開になりかねない設定にも思えるが、読み始めるとぐいぐいとドラマに引き込まれていく。どこか違和感のある、いびつな世界の中で、にもかかわらず、だからこそ人のありさまや生き方が浮き彫りになっていく表現は、現代の寓話(ぐうわ)として読みごたえ十分だ。最後まで読み終えると、思いがけず緻密(ちみつ)な物語構成も明らかになり、著者のていねいな作品づくりが伝わる。ぜひ上下巻を通して読むことをおすすめしたい。=朝日新聞2023年4月1日掲載