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ティリー・ウォルデン「are you listening?」 ロードコミック、雄弁な色づかい

(C)Tillie Walden/Ritsuko Sambe

 映画にはロードムービーというジャンルがあるが、さしずめこれはロードコミックというべき作品。たまたま出会った2人の女性が、車の旅の道連れとなり、目的地が漠然としたまま、途中で拾った迷い猫を持ち主に届けようと地図にない街を目指して走り続ける。1人はあてもなく家出をしてきた18歳、もう1人は目の前の現実から逃れるように車で旅に出た27歳。親との関係や性的な困難など、それぞれの抱える過去や悩みが、繊細な会話劇を通じて徐々に浮き彫りになっていく。そのときこの作品で言葉以上に雄弁なのが、風景と色づかいだ。

 300ページ以上の全編がフルカラーで印刷されており、たそがれ時や夜の闇の中で、色づいた空の雲や山並みや木々が、画面の中でうねるように2人のメランコリックな心を映し出し、読む者を揺さぶる。人物の描写以上に、情念にいろどられた魅力的な風景がドラマを支えている。2人が苦しみながらも前に進み、道ができようとする情景は力強く感動的だ。モノクロ作品が中心の日本のマンガでは、まず経験することのできない感銘がある。アメリカの代表的なコミックス賞のアイズナー賞の2020年受賞作品。=朝日新聞2023年6月3日掲載