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小佐野彈さんが愛する天海祐希さんの「失敗」

©GettyImages

 実は映画が苦手である。注意欠陥多動性障害のせいか、映画館という閉ざされた空間で、じっと座って2時間を超えるような映像作品に向き合うのがなかなか難しい。テレビドラマも、長編の連続モノはあまり得意ではない。もちろん、これまでにハマった長編映画や連続ドラマはいくつか思いつく。台湾で観た韓国映画「王の男」は赤裸々な同性愛描写と残酷なまでの悲劇性にぞくぞくしたし、原作が大好きだったBLドラマ「消えた初恋」は母とふたり親子でどっぷりハマった。ただ、「好きな映像作品」として真っ先に思い浮かぶのは、エンタメど直球な、一話完結の勧善懲悪モノが多い。

 テレビドラマ「相棒」はほぼ全シリーズを網羅するくらい好きだし、子供の頃から「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」が好きだった。ラストには必ず悪者が逮捕されたりばっさり倒されたりして、すっきり終わる。「この先どうなるんだろう」という悶々とした思いを抱えずに、「あー、おもしろかった」というシンプルな満足感とともに床に着けるのが最高だ。

 くわえて、僕は女性が大活躍するドラマが大好きである。つまり、強い女性リーダーが主人公として事件や問題を解決してゆく一話完結のドラマは僕にとって最高の娯楽だ。米倉涼子さん主演の「ドクターX」シリーズや篠原涼子さん主演の「ハケンの品格」は大好きで、徹夜で全話を観てしまうこともあった。米倉さん演じる大門未知子の「わたし、失敗しないので」の決めゼリフには毎度痺れたし、自らのディシプリンを決して曲げない一方で情にあふれる篠原さん演じる大前春子の活躍の痛快さといったらたまらなかった。

 ただ、上記2作品を凌駕して僕が最高に好きなのは、天海祐希さん主演の「離婚弁護士」シリーズと「BOSS」シリーズだ。理由は単純で、天海祐希さんの大ファンだからである。女性が強くなければいけないわけでもないし、男勝りでなければならないわけでもない。ただ、さまざまなアンケートなどで「上司にしたい女性No.1」の常連である天海さんの演じる女性像は、自然体でありながらたくましく、包容力にあふれている上に柔軟だ。なにより、大門未知子や大前春子とちがって、けっこう「失敗」するのである。

「離婚弁護士」で天海さん演じる間宮貴子と「BOSS」の大澤絵里子は、ともに超高学歴女性である。大手法律事務所のエースだった渉外弁護士・間宮貴子は、ともに独立する予定だったパートナー弁護士の裏切りに遭い、結局ひとりで小さな弁護士事務所を開業するに至る。裏切りによってそれまでの顧客や人脈を失った間宮は、いたしかたなく街の弁護士(いわゆるマチベン)として離婚案件などを受けるようになる。最初はしぶしぶだったのが、市井のひとびとのさまざまな困りごとに向き合ううち、生来の正義感と情熱が燃えたぎり、間宮はやがて大きな不正に立ち向かってゆくようになる。

「BOSS」の大澤絵里子警部はキャリア組だったが、冤罪事件の影響で米国FBIに研修に行かされ、帰国後は新設された「特別犯罪対策室」の室長に「抜擢」される。しかし対策室は警視庁の訳アリの人材の掃き溜めで、実際には左遷に等しい人事だった。そこで一癖も二癖もある部下たちを率いながら、大澤は難事件の数々を解決し、最終的に国家的犯罪にまでたどり着く。

 間宮も大澤も、ともに知力と腕力にすぐれたスーパーウーマンだ。「ハケンの品格」の大前春子や「ドクターX」の大門未知子と同じく現実離れしている存在である。なのになぜだろう。天海さんが演じる間宮貴子や大澤絵里子は、どことなく「ほんとうにいそう」な感じがする。東京の路地裏に「間宮貴子法律事務所」があって、間宮先生が僕を助けてくれそうな。あるいは、僕がなんらかの事件に巻き込まれたとき、さっそうと特別犯罪対策室長の大澤警部が駆けつけてくれそうな。

 それは、前述したように、間宮先生や大澤警部がちょくちょく「失敗」するからかもしれない。事件に関することではうまくいっても、ふたりとも恋や人間関係でミスをしたり罠にハマったりして、失敗をする。ヤケ酒をして、クダを巻いて、愚痴を言う。宝塚出身の大スターでありながら、バラエティ番組などで垣間見せるお笑いが大好きで笑い上戸でチャーミングな天海さんの一面が、演じるキャラクターたちにも通じている気がする。