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刑事ワシントン・ポーの魅力に満ちた「グレイラットの殺人」 若林踏が薦める新刊文庫3点

  1. 『グレイラットの殺人』 M・W・クレイヴン著、東野さやか訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1430円
  2. 『残像』 伊岡瞬著 角川文庫 1056円
  3. 『時空旅行者の砂時計』 方丈貴恵著 創元推理文庫 902円

 (1)は、近年邦訳された英国ミステリの中でも注目度の高い〈刑事ワシントン・ポー〉シリーズの第四作。国家犯罪対策庁の重大犯罪分析課に勤めるワシントン・ポーが異様な事件に粘り強い捜査で挑む警察小説シリーズで、度肝を抜く謎解きのアイディア、天才的な情報分析官ティリー・ブラッドショーとポーの楽しい掛け合い、カンブリア州の土地に根付いた描写など多面的な魅力を持つのがシリーズの特徴だ。本作では首脳会議の開催が迫る中で起こったヘリコプター会社社長の殺害事件を中心に、複数の出来事が錯綜(さくそう)して謎を深めていく。一見、収拾がつかないような展開が謎解きとともに収斂(しゅうれん)されていく様が見事。

 (2)は身近にある悪意を描く事に長(た)けた作家、伊岡瞬による文庫オリジナル長編。奇妙な共同生活を営む住民たちのアパートに関わる浪人生の一平と、衆議院議員の息子の恭一、それぞれ境遇の異なる二人の人物の姿が交互に描かれていく。不穏な気配を漂わせつつ、話が一体どこへ向かうのか予測が出来ないスリリングな筆致が良い。

 (3)は連作短編集『アミュレット・ホテル』が話題を呼んでいる著者のデビュー作。一九六〇年にタイムスリップした主人公が瀕死(ひんし)の妻を助けるために、館で起きる惨劇を阻止しようとする本格謎解き小説だ。時間遡行(そこう)を取り入れたミステリは数多いが、本作はそれを徹底したフェアプレイの謎解きを構築するために上手(うま)く組み込んでいる点が魅力的だ。=朝日新聞2023年11月4日掲載