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「大河原邦男 プロフェッショナルの50年」 ロボット作品の設計、源流を記録

 大河原邦男氏の登場以前は、アニメに出てくるロボットや空間を彩るSF的な小道具は、アニメーターや「背景」「美術」といった役職の人々が兼務していた。しかし、描かれるメカや道具(時には兵器)がどういう仕組みで、内部構造がどうなっているのか、を考える必要が生まれる。なぜならそれらはプラモデルなどの玩具という形で、立体物として販売することになるからだ。ここにメカニックデザインという役職が誕生する。その最初の人物が大河原邦男である。

 大河原の代表的な仕事といえば「機動戦士ガンダム」「装甲騎兵ボトムズ」といった作品のロボット、「科学忍者隊ガッチャマン」「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」の毎週登場する敵メカなどだ。

 思えばこれらが制作され放送された1970年代から80年代がメカニックデザインの黄金期だ。以降、アニメ作品は量産されるようになったが、ロボものは限られた本数が制作されるにとどまる。つまり、現在75歳となる大河原の一連の仕事のインタビューは、日本の文化ともなったロボット作品の設計思想の源流を記録することにもなっており、この分野の黎明(れいめい)期の証言とも受け取れる。専業化しすぎたアニメにおけるメカニックデザインにも一石を投じる。

 〈メカに関してはあまりにもSF的にすると誰もついてきてくれないんです。飛躍しすぎず現実にあるものの延長線上にあるなかで一番馴染(なじ)む、「ひょっとしたら将来、絶対あるな」っていうところで止めておかなければいけないんです〉

 実際に、最初のガンダムが放送されてから40年以上経った現在までに、ガンダムの実物大模型や可動できるものが制作された。

 本書では大河原の半生を追う。「ガンダム」だけではなく、生まれ育ち、仕事場ともしている東京の稲城という場所の付近で見てきたもの(たとえば、調布、府中、立川などの基地がある場所で見たジープや弾薬庫)。また、東京造形大学でテキスタイルを学び、オンワード樫山などアパレル会社に就職していたことがアニメ業界では異質で斬新なデザインを生み出す背景にあったこともわかる。

 〈なるべくシルエットでインパクトを与えるような、そういうキャラクターライズを追求していったほうがいいと思いますね〉

 コミック、アニメ、玩具、雑誌など、メカニックデザインの仕事は工業デザインとも共通するほどクライアントとビジネスの幅が広く、大河原を知ることは日本の技術開発史としての側面も持つ。モビリティーのデザインや、トロフィーのデザインまでインタビューで拾っているのは聞き手の五十嵐浩司氏のこうした気概を感じさせる。=朝日新聞2023年11月18日掲載

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 KADOKAWA・1760円。アニメ作品におけるメカニックデザイナーの先駆者の仕事と人生を、アニメーション研究家が聞く。写真やメカの設定画なども多く掲載されている。