「芦別」書評 炭鉱の町の記憶を伝える
評者: 藤野裕子
/ 朝⽇新聞掲載:2024年03月16日
芦別 炭鉱〈ヤマ〉とマチの社会史
著者:
出版社:寿郎社
ジャンル:経営・ビジネス
ISBN: 9784909281562
発売⽇: 2024/01/12
サイズ: 26cm/336p
「芦別」 [編著]嶋﨑尚子、西城戸誠、長谷山隆博
北海道芦別市は、戦前から炭鉱と電力の町として、エネルギー供給を担った。特に戦後は大手5炭鉱を中心に急速な発展を遂げた。だが1960年代以降、石油エネルギーへの転換により閉山が相次ぎ、人口はピーク時の7万5千人から1万人台にまで減少した。
本書が注目するのは、芦別に移り住み、そこで働き、家族と暮らし、そこを去った多くの人びとだ。その記録は、編著者の一人で本書刊行後に他界した長谷山隆博の手によって、星の降る里百年記念館に集められていた。編著者たちは同館の膨大な資料のなかに分け入り、聞き取り調査も行って、人びとの足跡を再現した。
冒頭には百枚の写真が収録され、芦別の人びとの姿を伝える。各章では、樺太からの引き揚げ者、炭鉱での労働と災害、主婦会や生活学校、子どもたちの祭りやイベントなど、芦別に住んだ人びととその結びつきを多角的に掘り起こす。炭鉱地域の記憶を将来に伝える重厚な作品だ。