- 『密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック』 鴨崎暖炉著 宝島社文庫 1100円
- 『白薔薇(しろばら)殺人事件』 クリスティン・ペリン著 上條ひろみ訳 創元推理文庫 1320円
- 『法王の牙 病院サスペンス集』 黒岩重吾著 日下三蔵編 中公文庫 990円
(1)は「現場が密室である限り、犯人は必ず無罪になる」という判決により、密室殺人が急増した日本を舞台にした謎解き小説シリーズの第三作。今度は閉ざされた村で多彩な密室トリックが炸裂(さくれつ)する。
巨大な鍾乳洞内部に白い直方体の建物が並ぶ「八つ箱村」。奇妙な集落で開かれた祭りの最中に作家一族の娘が射殺され、さらに人体発火による死者が出た。この事件を皮切りにミステリマニアの高校生・葛白香澄は連続密室殺人に巻き込まれる。横溝正史のパロディで笑いを誘いつつ、古典的な探偵小説のガジェットを緻密(ちみつ)に組み合わせることで意外性に富んだ推理を生み出し読者を驚嘆させる。アイディアの圧倒的な量に毎回感心するシリーズだ。
アンソニー・ホロヴィッツ作品のヒットによって英国風の謎解き小説に近年注目が集まっている。(2)も伝統的な犯人当て小説の香りが漂う作品だ。ミステリ作家志望のアニーは資産家の大叔母に会うためキャッスルノールという村を訪れるが、大叔母は屋敷内で死んでいた。大叔母は十六歳の時に占い師から「おまえは殺される」という予言を受け、信じ続けていたという。過去と現在を往還しながら進む物語の中に、巧妙に隠されていた手掛かりが浮かび上がる瞬間が堪(たま)らない。
(3)は社会派小説・風俗小説の名手であった著者の、病院を舞台にした短編ミステリの傑作集。戦争や闘病など自らの体験を色濃く反映しながら、剝(む)き出しになった人間の欲望を真正面から捉えた物語は、今の時代も鋭さを放つ。=朝日新聞2024年7月27日掲載