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「ふしぎな鏡をさがせ」書評 本当の理解は子供に戻ってこそ

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2024年10月26日
ふしぎな鏡をさがせ 著者:キム・チェリン 出版社:小学館 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784092906723
発売⽇: 2024/07/11
サイズ: 15.1×19.5cm/194p

「ふしぎな鏡をさがせ」 [作]キム・チェリン [絵]イ・ソヨン

◇『ふしぎな鏡をさがせ』(キム・チェリン作、イ・ソヨン絵、カン・バンファ訳)の横尾忠則さんによる書評は、読み手の「鏡にうつす」という行為によって完成するアート書評です。鏡のなかのもうひとつの世界をお楽しみください。(読書編集長・柏崎歓)
    ◇
 画面に鏡の破片をベタベタ張りつけたり、左右逆の鏡文字を絵の中に描き入れた作品に熱中した時期があったので、この鏡について書いた奇麗な絵入りの本に何となく惹(ひ)かれてしまったのです。
 この物語の主人公はぼくという子供だけれど、おじいちゃんがぼくにたのんで鏡の国へ行くことができる不思議な鏡を捜すところから始まります。
 おじいちゃんは異界の魔法使いで、この世界とうりふたつの世界がどこかにあるらしく、まあパラレルの世界のことだと思うけれど、おじいちゃんは鏡の向こうの世界から来たというのです。
 「わしはもともと、あっちの世界でくらしてたのさ。おまえに会いにこっちへ来たんだよ」といって、もう一度そこへ行かなければならないから、そのためのアイテムが鏡だというのです。
 そこからこの本の物語が始まるのだが、われわれ、この知の世界こそが世界だと思っている大人にとっては、この子供向けの本が逆に難解に思えるのです。この本を本当に理解したいのなら、子供に戻らないと、読者になる資格がないんじゃないかと思うんですが、如何(いかが)でしょうか。
 本書の帯には小学校中学年から大人まで、と書いてあって、「探究&自由研究のヒントがいっぱい!」と。鏡のふしぎを〝やってみて〟とき明かす科学冒険物語らしいが、科学にうとい僕はチンプンカンプン。総力を挙げてわがインファンテリズムを動員したがブロックされたまま。
 つまりこの本は、頭や手をはたらかせ、動かして謎を解きながら、それでもいっこうに前進しないのであります。でもここには神話や童話や算数と科学、絵画工作まであって、自然に知識、教養が身につくという一冊であるらしい。そこで文中からの言葉を拾い集めてコラージュにしてみた。いっそのこと、左右逆転鏡文字で鏡に映して読むのも如何なものでしょうか。
    ◇
Kim Chailin 韓国の作家。作品に「あいまいさについて」など。Lee Soyung 韓国とフランスが拠点の絵本作家。