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心揺さぶる情熱感じる「江戸川乱歩トリック論集」 若林踏が薦める文庫この新刊!

  1. 『江戸川乱歩トリック論集』 江戸川乱歩著 中公文庫 1430円
  2. 『魔女の檻(おり)』 ジェローム・ルブリ著 坂田雪子監訳 青木智美訳 文春文庫 1650円
  3. 『怪獣殺人捜査 殲滅(せんめつ)特区の静寂』 大倉崇裕著 二見文庫 968円

 ミステリ小説の魅力は様々だが、奇想天外なトリックを楽しみに読む人は多いのではないだろうか。日本推理小説の父と呼ばれる江戸川乱歩もトリックに魅了され、没頭した時期がある。(1)は乱歩が探偵小説のトリックについて論じた文章をまとめたものだ。乱歩のトリック研究の代表作である「類別トリック集成」は戦後に英米の短編探偵小説を読み漁(あさ)り、そこで使われているトリックを分類したもので、その細かさはトリックに対する執念にも近い情熱を今もなお感じさせる。巻末に収録された横溝正史との対談における熱意ある言葉は、現代のミステリファンの心も揺さぶるだろう。

 反則ぎりぎりのラインを狙ったような大仕掛けが炸裂(さくれつ)する『魔王の島』で日本の読者を驚愕(きょうがく)させたフランスの作家ジェローム・ルブリ。最新邦訳作である(2)もまた、一筋縄ではいかないミステリだ。十七世紀に女性たちが魔女と見なされ殺されたという凄惨(せいさん)な歴史があるモンモール村。そこに新任の警察署長として赴任してきたジュリアンは次々と奇怪な出来事に遭遇する。読者の不安を搔(か)き立てるような要素をこれでもかと詰め込んで煽(あお)った後に、啞然(あぜん)とするような結末を用意する。技巧的というより豪腕で圧倒されるような読後感を与えてくれるミステリだ。

 (3)は屈指の特撮好きでもある作者が怪獣への愛情と謎解きミステリへの愛情を合体させて書いた怪獣謎解き小説集。怪獣もののツボをしっかり押さえつつ、そこに謎解きの要素を自然に組み込み楽しませる手腕が見事である。=朝日新聞2024年11月16日掲載