むちを持ち、SM女王様の芸でブレークしたのは30代。「一発屋です」と言うが、こんどは文芸で新境地だ。「読んで笑いましたという反響をいただくと、まだまだ笑ってもらえるんだとうれしくて。悩みのある方、仕事で疲れている方たちにとって、この本が箸休めになったら」
コロナ禍のあおりで仕事がなくなり、実家に帰った。そこはちょっとしたゴミ屋敷で、ゴミに埋もれていた母は認知症の初期とわかった。母とダウン症の姉、酔っ払いの父との二十数年ぶりの同居。泣き笑いの日々をウェブ連載し、2冊目となった。
83歳になる母は看護師で生計を支え、すみちゃんたち姉妹を愛情深く育ててくれた。症状は少しずつ進むが、あれしてはダメとなるべく言わないようにしている。「私が不安なために、母の残りの人生を狭めるのはイヤだなと」
歯医者通い、家電の買い替え、お風呂騒動。あれこれ起きるが、盛っては書かない。「認知症や障害のある方がこういう行動をとるんだと誤解されないように。正しく伝えたい」。母が話したことはつぶさにメモしておく。
51歳の姉は優しくて、しんどそうにしていると、いつも歌ってくれる。「蛍の光」が得意で2番まで。「1番だけでいいよって言うんですが」
そんな姉と母が、すみちゃんの帰宅を待ち構えている。トランプしようって。夜中に3人でばば抜きだ。「姉はばばを出して見せるし、おもしろくないじゃないですか。でも、母も姉もケタケタ笑いながらやる。そういうの、いいなあと思うんです」
実家に帰った4年前「頭かち割って死んでやる!」と言っていた母が、笑うようになった。娘に迷惑をかけまいとがんばっているのを感じる。
「私は、人生は自分ファーストでと思っています。私が元気でないと、家族も元気にならないと思うから」
そう、母は「好きなことを見つけなさい。個性はあなたを幸せにするよ」と言ってくれていた。そして、いま。「書くという好きなことが、本当に人生を助けてくれているよ、お母さん」(文・河合真美江 写真・伊藤菜々子)=朝日新聞2024年11月16日掲載