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「日記の練習」書評 未来から過去へ 日記はつづく

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2024年11月23日
日記の練習 著者:くどうれいん 出版社:NHK出版 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784140057476
発売⽇: 2024/09/19
サイズ: 12.5×17.9cm/256p

「日記の練習」 [著]くどうれいん

   11月23日
 僕の日記のキャリアは1970年からだから、この著者の日記よりはるかに年季が入っている。何しろ54年間続いているんだから。どうだ、まいったか。ワッハッハッ。
   11月24日
 この日は明日でまだ未来だ。「おもしろいから書くのではない、書いているからどんどんおもしろいことが増えるのだ」とは本書の著者の弁。そこはやっぱりこの人は作家なのかもしれない。彼女の日記は「練習」と「本番」がある。なぜ練習が必要?
   11月25日
 人生に練習などない。人生は全て本番だ。作家は日記を創作するのか? 画家は作品を分別しない。無分別だ。日記は愚者になることで、賢者になることではない。
   11月26日
 この著者はくどうれいんというエッセイや絵本を書く人だそうだ。この人が面白いのか日記が面白いのか、どっちでもいいけれど、彼女の日記は確かに面白い。「日記の本番」は「日記の練習」が終わった最後の日に書くらしい。「練習」と「本番」も88歳の老齢者には、あまりにも子供のままで逆に難解だけれど、若者の幼児性と老人の幼児性とは、頭脳性と肉体性の違いがあることに気づく。
   11月27日
 今日はまだ未来で何が起こるかは誰も知らないが、僕はたぶんアトリエに来て、絵を描いているだろう。もしかしたら、くどうれいんの日記のような絵を描くかもしれない。僕の絵にはサイン代わりに日付を書いている。絵日記である。
   11月28日
 本書でこの日のくどうれいんは、打合(うちあわ)せのためにフレンチカフェに入って注文をすると、隣に座る担当編集が「とんび」と突然言う。
   11月29日
 このあとも「日記の練習」は続く。
   3月31日
 4カ月後、日記は今日で終わった。仕事で書いた日記だった。
    ◇
1994年生まれ。作家。著書に小説『氷柱の声』、歌集『水中で口笛』、エッセー集『うたうおばけ』など。