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「バチカン機密文書と日米開戦」書評 興味深い近現代史の再検証

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2024年12月07日
バチカン機密文書と日米開戦 著者:津村 一史 出版社:dZERO ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784907623739
発売⽇: 2024/09/20
サイズ: 18.8×1.4cm/216p

「バチカン機密文書と日米開戦」 [著]津村一史

 日本の近現代史でバチカンの存在は意外に大きい。特に太平洋戦争時に、昭和天皇が気遣いをしていたことは重い意味を持つ。本書はバチカンの機密文書公開を機に、通信社の特派員として、いくつかの文書を探し出し、紹介した書である。
 すでに知られているバチカンを通じた日本の和平工作を整理し、その上で、1945年5月4日付の「一枚の紙切れ」を見つける。バチカン国務省の通達だ。「バチカンとして日米和平を実現させようとしていた」と見て、機密文書の分析を試みている。大本営発表と米軍の発表は開きがありすぎるとして、日本の発表を掲載しなくなったバチカンの新聞に対する日本側の抗議なども興味深い。
 文書には、ローマ教皇庁を訪問した外相・松岡洋右が、対米開戦回避の仲介をバチカン側に要請した会談の記録(41年4月2日)も含まれているという。バチカンは満洲国を承認したかのように言われているが、それは虚偽とも文書は明かしている。本書は歴史を大きく覆すとは思えないが、いくつかの史実は再検証が必要との感がする。