- 『アルパートンの天使たち』 ジャニス・ハレット著 山田蘭訳 集英社文庫 2090円
- 『タイタン・ノワール』 ニック・ハーカウェイ著 酒井昭伸訳 ハヤカワ文庫SF 1958円
- 『砂男』 有栖川有栖著 文春文庫 880円
日本ではフェイクドキュメンタリーの形式を取ったホラー小説がブームとなっているが、翻訳作品の中でもそれに近しい形のミステリが幾つか刊行されている。英国の作家ジャニス・ハレットによる(1)がまさしくそれ。十八年前にロンドン北西部でカルト教団の信者複数人が死亡する事件が起こった。本書はその事件を追うノンフィクション作家の取材記録で構成されている。電子メールやメッセージアプリなどのやり取りを始め、様々なテキストを織り交ぜながら読み手の不安を搔(か)き立てつつ、最後には伏線を回収し綺麗(きれい)に謎解きを収斂(しゅうれん)させる。
(2)は『世界が終わってしまったあとの世界で』など奇想に満ちた世界を舞台にしたジャンル横断の小説を書くニック・ハーカウェイによる、これまた奇想天外なSFミステリ。本書の世界では薬品を投与することで若返ると同時に体が大きくなる技術が発達しており、巨大化した人間を“タイタン”と呼ぶ。私立探偵のキャルは大学研究者で“タイタン”の男が殺害された事件を追う内に大きな闇へと巻き込まれていく。奇抜な設定を活(い)かし、私立探偵小説としての展開にひと捻(ひね)りを加えている点が秀逸。
(3)は昨年、作家生活三十五周年を迎えた有栖川有栖の単行本未収録中短編集。表題作は犯罪社会学者・火村英生が探偵役を務める中編で、“砂男”と呼ばれる都市伝説を調べていた学者が砂時計の砂を撒(ま)かれた中で死んでいた事件の謎解きに火村が挑む。論理を重ねながら人間の内奥に深く分け入っていく推理が余韻を残す。=朝日新聞2025年1月25日掲載
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