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過去から未来を見通す「東アジア現代史」 佐藤雄基の新書速報

  1. 『東アジア現代史』 家近亮子著 ちくま新書 1540円
  2. 『続・日本軍兵士 帝国陸海軍の現実』 吉田裕著 中公新書 990円

 戦後80年の劈頭(へきとう)を飾る2冊を紹介したい。近現代中国政治史の大家による(1)は、東アジアの国と地域(中国、日本、韓国、北朝鮮、台湾)がどのように近代化を遂げ、少子高齢化など共通の課題にどう向き合っていくのか、東アジア地域の過去から未来を見通す骨太の通史。今日でも続く歴史認識問題の歴史的背景を理解するために必読の一冊。一方で、中国国民党の指導者蔣介石の日記などを読み込み、国際政治の当事者の内面にも深く分け入る。随所に浮かび上がる人間ドラマもまた本書の隠れた魅力だ。

 (2)は話題作『日本軍兵士』の続編だが、大戦末期の日本軍の自滅と大量死の実態を解明した前作に対して、その歴史的背景を探るため、日本軍兵士の「生活」や「衣食住」に焦点をあてて、明治以来の帝国陸海軍の生態を分析する。意外な事実だが、日本軍は日清戦争以降、軍事衛生などの面でかなりの改善を進めていた。だが、国際比較で明らかなように、日本の国力では機械化に限界があった。それ故、1937年に日中戦争が本格化すると、兵士に過重な負担を強いた総力戦に突入せざるを得なかった。

 (1)によれば、日本側の当初の予想に反して、日中戦争が長期化・泥沼化した背景には、国際社会の複雑な思惑があった。中国を中心とする東アジア情勢に近代日本は規定され、日本軍兵士の大量死という悲劇も起こった。この歴史に学ぶためにも、東アジアの連関、世界史の中で日本史を考える必要があるのだ。=朝日新聞2025年2月1日掲載