映画「少年と犬」西野七瀬さんインタビュー 「出会っていなかったら今の自分はいない」と思う存在

――本作は、主人公でもある犬の「多聞」が、旅の途中で出会ったつかの間の飼い主とバトンをつなぐ物語。震災や認知症など、重いテーマを扱った作品でもありますが、原作を読んで、どんな感想を持ちましたか。
私は普段あまり小説を読まないのですが、和正や美羽が自分と向き合って変わっていく姿が分かりやすく描かれ、一話完結のような連作集だったので、とても読みやすかったです。
映画は原作と内容が違うところもあるのですが、犬が人をつないでいくというところは同じで、一つひとつの出来事や人との会話を「多聞」がどこか淡々と見たり聞いたりしているんです。多聞が出会う人たちはみんなつらい経験をしているので、それぞれの話に重みを感じました。
――美羽を演じるにあたり、今まで経験したことがない感情になる場面が多かったそうですが、その感情とは具体的にどんなものだったのでしょうか?
あることを機に、美羽は衝動的な行動を起こしてしまうのですが、私はその心情を理解すること、共感することができなかったので、感情移入するのがとても難しい役でした。美羽のギリギリの状態まで自分の気持ちを近づけていく必要があったので、自分なりに想像して、考え抜いたものを体現することに日々向き合っていました。
多聞のためにデートクラブの社長から借りたお金を守るシーンは、演じていても特に辛かったです。美羽からお金を奪おうとする役の方の迫力がすごくて、本当に怖い気持ちになりましたが「このお金は絶対に渡さない」という美羽の強い意志を感じさせるシーンでもあったので、台本に書いてあるものから少しはみ出すような感情が、自然と出てきた瞬間を感じました。
――高橋文哉さんが演じる和正と、多聞(美羽は「レオ」と呼ぶ)の出会いは、美羽にとってどんな変化になったと思いますか。
レオは間違いなく、美羽にとっての救世主だったと思います。それまでの美羽の人生は、家庭環境や元彼との関係など、辛いことが多くてどん底でした。そこに突然レオが現れたことで「レオがいるから頑張れる」と前向きになることができ、救われたような気持ちになったのだと思います。
その後、多聞を探すために和正も現れたのですが、美羽にとっての第一印象は「自分のことを調べているちょっと変な人」。でも、その後一緒に過ごしていくうちに和正に助けられることが何度もあって、お互い家族のことで悩んでいたり、つらい出来事を抱えていたり、共感・共有できるところがあったのかなと思います。
――最初は不信感があった和正ですが、徐々に打ち解けて、美羽の妹の結婚式で一緒に「ヘビーローテーション」を歌うシーンの笑顔が印象的でした。美羽は母親にも妹にも疎まれ「いないもの」として扱われて傷つきますが、和正の取った行動によって、どこか吹っ切れたようにも感じました。
結婚式での出来事が、美羽の中で和正に対する気持ちが変わるきかっけになったと思います。それまでは、美羽も家族に対してモヤモヤした感じがずっとあったけど、和正が大胆な行動をして、美羽の気持ちに寄り添ってくれたことで、やっと家族という呪縛のようなものから離れられたのだと感じました。普通に考えたら「何してるの?」と思ってしまうようなことかもしれませんが、それが美羽を救ってくれたのだと思います。
――人でも犬などの動物でも、「この人と出会ってよかった」と思うことはありますが、西野さんにとって、そういう出会いはありますか?
やっぱり「乃木坂46」のメンバーとの出会いは大きいですね。私は学校が共学だったので、最初は「女の子だけがたくさん集まるグループってどうなのかな?」と思っていたのですが、全国から集まってきたいろいろな個性の子がいて面白かったです。
普通に生きていたら出会うことのない人たちとの出会いは、とても刺激になりました。10代、20代を共に過ごして、たくさんの思い出を共有できる存在は一生ものだなと思いますし、会うたびに昔の話をして笑える人たちがいるって、すごく嬉しいことだなと思います。
――今でも特によく会うメンバーはいますか?
よく遊ぶのは、1期生だと高山一実、2期生では伊藤かりん、3期生はつい先日グループを卒業した与田祐希ですね。みんなそれぞれの道を歩んでいて、変わったところも変わらないところもあって面白いなと思います。特に結成時の同期生とは見えないつながりを感じているので、美羽にとってのレオと和正のように、出会っていなかったらその後の人生はなかっただろうなと思える、私にとっては特別な存在で大切な戦友です。
――本作は「再生」もテーマの一つでした。道を踏み外してしまったり、失敗したりしても「きっとやり直せる」という希望を感じましたが、西野さんは失敗した時、どう立ち直っていますか?
私は失敗することもいい経験だと思っています。自分がそれを「失敗」と取るかどうか、でもありますが、「失敗したな」と思った時はすぐに忘れて、あまり引きずらないタイプなんです。元々はネガティブだったのですが、今は楽観的な考え方をするようになって、失敗したら「ああいうこともあったね」ってあとから笑い話にできたら面白いなと思うようになりました。
――ネガティブからポジティブに思考が変わったのは、いつ頃からだったのですか?
20代前半だったと思います。それまではネガティブな発言が多くて、何も考えずにそういう言葉を口にしていたのですが、ある時「私がそういうことを言ったら、周りの人に気を遣わせてしまう」と気づいたんです。それを機に、きっぱりと「ネガティブはやめよう」と思うようになりました。ちょっと嫌なことがあっても、それを楽しく話せば周りの人たちもあまり気を遣わないだろうし、自分自身にもそう思い込ませるようなところもあったと思います。
――幼い頃から漫画に囲まれて育ったそうですが、最近はどんな作品を読んでいますか?
最近は『天地創造デザイン部』(原作:蛇蔵、鈴木ツタ/作画:たら子)という漫画を読みました。天上に、生き物をデザインする「デザイン部」があって、クライアントの「神様」から生き物の創造を依頼されるのですが、「この動物にはこういう機能をつけよう」とか「この子には天敵がいるから、それに対抗できるようにしよう」と奮闘するんです。神様の依頼が結構な無茶振りなので、デザイン部のみんなは振り回されるのですが、地上に存在するいろいろな動物たちが「どうしてそのような形状や生態になったのか」が描かれていて、すごく面白かったです。
――そのほかに、好きな作家さんや作品を教えてください。
子どもの頃から少年漫画をよく読んでいたので、今も一番読むのは少年漫画で、バトルものも好きです。あとは田島列島さんの作品が好きで、ほわほわとした和み系の絵なのですが、お話のテーマはシリアスというギャップが面白くて!
中でも、女子高生の美波と同級生の「もじくん」の夏休みを舞台にした『子供はわかってあげない』(講談社)の主人公の心情の描き方が好きなんです。美波が「もじくんに会いたいな」と独り言を言うシーンがあるのですが、思わず「キュン」としました(笑)。きっと田島さんは、読者をキュンとさせようと思って描いていないと思うんですけど、そういった何気ないところで心を打つ場面があるところが素敵だなと思います。
――たくさんの作品を読んできた西野さんが、漫画から得たことは?
その作品の世界観に没入できるところが、漫画の好きなところです。楽しい気持ちや悲しい気持ちになるものや、人生の教訓のような作品もあって、いろいろな感情を知ることができますし、作者の方が伝えたいことはきっと無限にあると思います。
でも、意味がよく分からないような、メッセージ性が全くない作品も好きなんです (笑)。ジャンルを問わず、いろいろな作品を読むと「漫画って自由だな」と思います。私も「自由」という言葉が好きなので、たくさんの漫画から自由に生きることの素晴らしさを教えてもらいました。