「52ヘルツのクジラたち」どんな本? 杉咲花さん・志尊淳さん出演で映画化された本屋大賞受賞作

『52ヘルツのクジラたち』は、2020年4月に刊行された、町田そのこさんの初めての長編小説。2021年本屋大賞(第18回)を受賞したほか、書店グループ・未来屋書店の「第4回未来屋小説大賞」や、テレビ情報番組「王様のブランチ」の「『王様のブランチ』BOOK大賞2020」、書評サイト「読書メーター」と雑誌『ダ・ヴィンチ』の連動企画「読書メーター オブ ザ イヤー 2020」総合ランキング1位に輝くなど、大きな話題を呼びました。
物語の主人公は貴瑚(きこ)という女性で、親から長年に渡って虐待を受けた上に、束縛され続けて心に深い傷を負っている。そんな彼女は恩人となる人の助けも借りて家族から離れることができたが、さらなる不幸が彼女を襲う。すべての人間関係を断ち切って田舎の一軒家に引っ越してきたものの、田舎ならではの無遠慮な眼差しにさらされて辟易としていた。そんなある日、言葉を全く発することができない一人の少年と出会う。その怯えたような態度から、貴瑚は、彼もまた親から虐待されているのではないかと推測する。
誰とも関わらずにいれば、平穏に暮らせると思って逃げるように田舎町に来たはずの貴瑚だが、少年と関わるようになるにつれ、彼女自身の過去も明らかになっていく。「52ヘルツのクジラたち」町田そのこさんインタビュー 虐げられる人々の声なき声をすくう|好書好日
タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、世界で一番孤独だと言われているクジラのこと。他のクジラとは声の周波数が違うため、いくら大声をあげていたとしても、ほかの大勢の仲間にはその声は届かず、世界で一頭だけというそのクジラの存在自体は確認されているものの、姿を見た人はいないと言われています。
町田そのこさんは「好書好日」のインタビューで、「読んだ人にもどんな対処方法があるかを知ってもらった上で、『このやり方はおかしい』『私ならこうする』などと考えてもらうきっかけにしてほしかった」と語っています。
「私にも子どもがいるので、虐待児童のことは以前からずっと気になっていました。ニュースを見ながら、虐待された子はどうしたら救いの手を差し伸べることができるんだろうと考えていたんです。また、声なき声にもいくつか種類があって、声をあげたい人、声をあげるのを諦めた人、そもそもあげることを知らない人などがあると思うんです。そういう人は虐待児童だけでなく、DV被害者やトランスジェンダーなどにも存在していると思い、いろんな人の声なき声を小説に織り込んでみることにしました」「52ヘルツのクジラたち」町田そのこさんインタビュー 虐げられる人々の声なき声をすくう|好書好日
町田そのこさんは1980年生まれ。福岡県在住。「カメルーンの青い魚」で、第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。2017年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社)でデビュー。他の著書に『ぎょらん』(新潮社)、『うつくしが丘の不幸の家』(東京創元社)、『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』(新潮文庫neo)、『夜明けのはざま』(ポプラ社)、『月とアマリリス』(小学館)などがあります。
『52ヘルツのクジラたち』は、2021年本屋大賞(第17回)の大賞を受賞しました。町田さんは2021年4月14日の発表会で「自分の中でわだかまりとして残っていた問題。これを書くことで虐待問題に対する自分の姿勢を再確認して整理し直した」と振り返りました。
「(この本が出た)昨年の4月は新型コロナで世の中が今よりもっと混乱していた。その中で無名に近い私の本が、果たしてどこまでがんばれるんだろうと不安でした。ただ、この本はどんどん存在感を増していった。この本を売らなきゃとがんばっていただいた出版社、書店の皆さん、たくさんの人の思いが詰まった本を受け取ってくださった読者の皆さんのおかげです」本屋大賞に「52ヘルツのクジラたち」 町田そのこさん「胸を張って氷室冴子さんにお会いできる」(授賞式詳報)|好書好日
『52ヘルツのクジラたち』は実写映画化され、2024年3月に公開されました。主人公の貴瑚を杉咲花さんが、貴瑚を救おうとする岡田安吾という人物を志尊淳さんが演じました。杉咲さんと志尊さんは「好書好日」のインタビューで、以下のように語りました。
杉咲:この物語のように、痛みをもつ人たちの声が聞こえなかったり、その姿が可視化されていなかったりする社会の現実があると思っていて。そうした存在を認識したうえで、私たちはどのようにして共に生きていくことができるのか、世界に生まれた誰もが生きていることを祝福される世の中であってほしいというメッセージを感じたんです。そういった意味での“祈り”なのではないかなと。
志尊:いろいろな作品を経て、やはり知ることは大事だなと思うんです。知性は時には武器にも盾にもなるもの。かと言って、全く興味のない人に「知ってください」とは言えない中で、何かを知るきっかけになることだけでも大事なことだと僕は思ってます。
例えば、この作品には虐待を受けている人やヤングケアラー、性的マイノリティーが出てきますが、そういう人がいるということだけでも知ってもらうきっかけになったらいいなと思うんです。生死を扱っている物語でもあるので、この物語を通して何か伝えることに意味はあるはず。そう信じて、僕らは作品を作っていきました。映画「52ヘルツのクジラたち」杉咲花さん・志尊淳さんインタビュー「誰もが生きていることを祝福される世の中に」|好書好日