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「黒部源流 山小屋料理人」書評 ハプニングを包み込むたくましい明るさ

評者: 竹石涼子 / 朝⽇新聞掲載:2025年05月17日
黒部源流 山小屋料理人 著者:やまとけいこ 出版社:山と渓谷社 ジャンル:日本のエッセー・随筆

ISBN: 9784635330848
発売⽇: 2025/03/05
サイズ: 18.8×1.2cm/160p

「黒部源流 山小屋料理人」 [著]やまとけいこ

 山小屋ガイドや山ごはんレシピの本は数々あれど、山小屋の料理人が書いた舞台裏の本は珍しい。美大ワンゲル部出身の著者が描くイラストも楽しい。
 生鮮品が手に入りにくい黒部源流の山の上。作品を通じて流れるのはたくましい明るさだ。
 食材の寿命を延ばす涙ぐましい努力。国内外から集うスタッフが披露する郷土料理や少しスリリングな賄い。食材をめぐる動物との攻防。
 貴重な食材を台無しにするネズミやヤマネは「天敵」だが、どこか憎めない。ヤマネにいたっては貴重な手作りヨーグルトに2度もドボン。頭だけ出しているところを救出された。
 「ヨーグルトがやられたというよりも、ヤマネがヨーグルトにやられた」という表現が温かい。
 料理人たちは優しくタオルで体を拭いてやり、自分でヨタヨタ歩き出すまで見守るが、甘やかしもしない。
 毎日のハプニングを温かく包みこんで通りすぎていく山小屋の空気と適度な距離感が、読む人の心をほぐしてくれる。