ISBN: 9784623097715
発売⽇: 2025/04/15
サイズ: 21.6×3.2cm/560p
ISBN: 9784623097722
発売⽇: 2025/04/15
サイズ: 21.6×2.4cm/372p
「アメリカ帝国」(上・下) [著]A・G・ホプキンズ
書名だけ見ると、金釘文字の「打倒米帝」とか、ディズニーやマックの文化帝国主義の話かと思うが、違う。19世紀末の米西戦争以降、実際にアメリカがハワイ、フィリピンやキューバなどの島嶼(とうしょ)諸国を支配した、「忘れられた帝国」に光を当てた本格的研究書だ。
上下2巻の大作、著者自身が「読者にも背伸びをさせる」、というだけあって、読みこなすには力がいる。しかも全体の四分の一近くはヨーロッパの帝国史とその比較だ。だが年表と首っ引きで読めば、世界大の通史を俯瞰(ふかん)できて、壮大だ。
本書の主張は明瞭である。例外視されてきた「合衆国の物語をグローバルな(略)帝国の脈絡の中に位置づけ」、アメリカが、「入植者帝国主義」に始まり「帝国領土を保有するヨーロッパの国家と同じ道を歩んだ」ことを示す。
アメリカが支配したカリブ海と太平洋の島々は、入植植民地だったハワイ(州に昇格)や交易植民地だったフィリピン(独立)、交易・譲許型ハイブリッドのキューバ(独立)やプエルトリコ(未編入領土)と、それぞれ統治の形態は異なる。
だが米企業の海外開発対象となり、米の国内産業保護政策に振り回され、白人優位を前提とした「慈悲深い同化」、「文明化の使命」の名のもとにアメリカ化され、現地エリートが米統治に取り込まれたり、本国の関心が薄れて見捨てられたりと、西欧帝国の経験と類似の展開がそこにある。島嶼領土支配に関税政策が大きな役割を果たしたことを見ると、トランプ関税のルーツここにありか、とも思う。
白人入植者の少ないハワイが州に格上げされたこと、本国での「非白人」の公民権運動、アフリカでの西欧からの脱植民地化。これらを数世紀にわたる「帝国」の支柱、白人中心主義からのグローバルな転換だったとすれば、今また世界を覆う排外主義政党の台頭は、グローバルな逆行なのかもしれない。
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A. G. Hopkins 英国の歴史学者でケンブリッジ大名誉教授。共著に『ジェントルマン資本主義の帝国』がある。