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〈オススメ〉西谷修『戦争と西洋 西側の「正義」とは何か』

 限界状況を生んだ20世紀の世界戦争。その時代の思想家らの研究を起点に戦争を問い続けてきた哲学者が、戦後80年の年に放つ一冊だ。

 西洋の世界進出と支配の歴史をたどり、特に東西冷戦後の30年余に焦点を当てる。たとえば9・11後、テロリストとの対決へ向かった米国の動きは、スピノザが言う「コナトゥス」、存在への固執または自己保存の原理であり、近代思想の合理性のテーゼにほかならないという。「『敵』を悪魔化する」のが西洋文明の特徴の一つで、服従しない敵は根絶するとも。

 一面的な議論とみる向きもあるだろう。著者は第三者の立場を心がけたと記すが、正直、傾きも感じる。だが再び戦争や殺戮(さつりく)が世界を揺るがす今、構造を「歴史的時間の厚み」の中で照らし出す意義は小さくない。=筑摩選書・1925円(藤生京子)=朝日新聞2025年8月16日掲載