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斉藤政喜さん「シェルパ斉藤の還暦ヒッチハイク」インタビュー 結末知れぬ旅にドキドキ

斉藤政喜さん

 背筋をすっと伸ばし、腕をあげ、親指を立てた。

 「舞台に立つような気分です。みんなに見られるしね」

 ほほえみをたたえた顔は、どこまでも穏やかだ。

 「少し恥ずかしいけど、堂々と。笑顔は大事ですよ」

 通りすがりの車を呼び止め、見知らぬ人と旅を進める。そんなヒッチハイクの旅は若者の特権だと思っていた。

 「年を重ねたからこそ味わえるおもしろさがある」

 日本を代表する紀行作家は、「シェルパ斉藤」のペンネームで若い時から国内外各地を歩き、64歳の今も旺盛に旅と雑誌連載を続けている。真骨頂が行き当たりばったりの旅。犬連れバックパック旅だったり、耕運機日本縦断だったり、結末はおろか、明日を見通せない予測不能の旅を愛してきた。中でもひかれてきたのがヒッチハイクだ。

 仕事途中の会社員や職人さん、はては街宣中の選挙カーやヤクザまで。これまでヒッチハイクで交わった人との出会いと別れの物語は痛快で、どれもやさしい。

 印象的なエピソードが紹介されている。その日、朝からヒッチハイクを始めたが、午後になって数千台を見送っても1台も止まってくれない。心が闇に沈んでいくそのとき、若い男性が近づいてきた。「がんばってください。応援してます」。そう言って、彼は飲み物と弁当、おにぎり2個を差し入れしてくれた。

 〈おそらく千人にひとりくらいだろう。いや、5千人にひとりかもしれない。自分の味方が、自分の行動を応援してくれる人が、世の中には必ずいる(略)そう考えたら目の前が明るくなった〉

 結末知れぬヒッチハイクの旅は人生にも似ている。失敗続きと思った先で幸せをつかんだり、ひとりの優しさが心に明かりをともしたり。

 「人生経験を積んだからこそ、一つ一つの状況に冷静に対処できるし、出会う人とも深く話ができる。ヒッチハイクをするときはいまだにドキドキします」

 必要なのは少しの勇気と好奇心。きっと良い出会いがあると思わせてくれる。(文・写真 斎藤健一郎)=朝日新聞2025年8月23日掲載