- )『戦争特派員は見た 知られざる日本軍の現実』 貴志俊彦著 講談社現代新書 1012円
- 『商人の戦国時代』 川戸貴史著 ちくま新書 1155円
情報が溢(あふ)れる現在、目の前の画像はどのように生成され、選択され、届いてきたのか、立ち止まって考えるリテラシーが大事だ。メディア史家による(1)は、毎日新聞社との合同プロジェクトで、同社の大阪本社に秘蔵されてきた日中戦争・太平洋戦争の戦中写真を分析し、それを撮影した従軍特派員たちの姿を克明に追う。彼らが命懸けで撮影した写真が、どのように読者に届けられたのか、あるいは検閲などで公表されなかったのか、新聞事業と戦争との関係全体を見据えて論じる。写真をめぐる「人」に焦点をあてた叙述が魅力的だが、掲載「不許可」写真一点一点の考察も興味深い。何が見えていないのか、何を隠したいのかというところにこそ、人や組織の姿は浮き彫りになるのだろう。
軍人ではなく特派員から戦争を捉えた(1)に対して、戦国大名や武将ではなく、商人を主人公にして戦国時代を描いたのが、中世史家による(2)である。商人といっても、後世のイメージとは異なり、中世社会の多様性に応じて、寺社に仕える人びとや、村落を拠点とする新興商人、大名の家臣など、多様な属性の持ち主が商人として登場する。また、戦国時代といっても合戦の話はほとんどなく、新たな商売を求める人びとの動きが具体的に描かれている。16世紀は世界的な「商業の時代」で、日本は銀などの資源大国となって海外に開かれ、「自由」を求める人びとの動きもまた活性化していた。新たな戦国時代像を提示する一冊。=朝日新聞2025年8月23日掲載