新里堅進〈著〉 藤井誠二〈評伝〉 安東嵩史〈編〉「ソウル・サーチン」 人生の選択を優しく後押しする
沖縄戦の翌年にあたる1946年に生まれた著者は、沖縄の地でひたすら「沖縄」を描き続けてきた。その半世紀を貫く創作の軌跡から重要作品を採録し、徹底取材による評伝と撚(よ)り合わせた全900ページ超えの作品集だ。
ヤンバルの森でひっそり暮らす偏屈なハブ捕り名人・仁王の物語『ハブ捕り』。ここに収録された「悪夢の果て」には、仁王の中に今も巣喰(く)う沖縄戦の悲痛な記憶が描かれる。沖縄県平和記念資料館に展示されていた沖縄戦当時の水が入ったままの水筒。その背景に心を寄せ、イメージを立ち上げていった『水筒 ひめゆり学徒隊戦記』より収録の7編には、生と死が極限まで近づいた状況における人々の姿が、独学で磨いた圧巻の画力で描かれる。
作品を創るにあたって著者は、その土地にダイブするかのように綿密な現地調査を行い、多くの語りに耳を傾け、膨大な資料にあたるという。情熱がなければ続かぬ真摯(しんし)な取材と作画の積み重ねによって生まれた生原稿を、今夏、初めて展覧会で見た。そのペン先からは、沖縄という地が望まぬ旅路の果てに呑(の)み込んできた夥(おびただ)しい血と涙と叫び声が滲(にじ)み出ている――。そんなイメージが一瞬にして体の奥から湧き上がり、その吸引力に圧倒された。=朝日新聞2025年9月6日掲載